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[コメント] HERO(2002/中国=香港)

設定が何度も変わる場面は『羅生門』、冒頭の馬の描写は『七人の侍』を彷彿とさせる。どちらも黒澤映画だが、その偉大さを感じた。
kazooJTR

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圧倒的なスケールは絶句してしまう程で、スクリーン一杯に並べられた軍隊の人々、広大で神秘的でさえある大王の間、その迫力は圧巻の一言。軍隊はCGではなく、全て本物の人。驚異的だ。

そして特筆すべきは映像美である。 黒、赤、緑、青、白と5色が基調になっていて、赤、青、白は物語別で分かれている。 ここで非常に重要なのが、“血”である。 剣を使ったアクションゆえ血が流れるのが普通だが、この作品では流れない。全く流れないということはないのだが意識的に排除している。 赤を基調にした飛雪(マギー・チャン)と如月(チャン・ツィイー)との戦いのシーンで少し剣から滴り落ちるのだが、それまで橙だったのが如月が倒れるのと同時に紅に染まっていく。 最後の白を基調した場面では、全く流れなかった。 ハリウッド映画などでは簡単に“血”が噴出しているが映像を工夫するというのはこういうことだ。少しは見習って欲しい。

“風”を意識した映像も素晴らしい。 ワイヤーアクションのシーンでの衣装のなびき方をはじめ、多くのシーンでこれが意識されている。 矢を放つシーンでも、“風!”と叫んでいるように、この映画で“風”の持つパワーは大きな存在だ。

難しすぎないストーリー、傑出したワイヤーワーク、テーマの明確さはどれをとっても非の打ち所なし。

考えさせられたのが、ラストで無名(ジェット・リー)が矢を食らうシーン。 この前のシーンで大王に剣柄を突き立てるシーンで、“今、あなたが死ねば多くの人が命を落とす”というジェット・リーの台詞に集約されていた。無名が生きて帰ったり、大王が死ねば、秦軍の反乱が起こり趙軍との争いが起こる。しかし無名が死ねば争うことはない。残剣(トニー・レオン)の「剣を持たずに、全てを包み込む」という最高奥義とともに、“戦争反対”というメッセージを表す明確な場面だった。

上記のように、この映画は非常に考えさせられる映画だ。

設定が何度も変わる場面は『羅生門』、冒頭の馬の描写は『七人の侍』を彷彿とさせる。 どちらも黒澤映画だが、その偉大さを感じた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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