[コメント] キッズ・リターン Kids Return(1996/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
誰もが、誰とも噛み合わない。人生はただただ道を外れていく。生きている限りその存在は構造の因子ではあるけれど、大きな流れに抗うにはあまりに小さい。その小ささで人生を切り拓く、構造をコントロールなんてできるものか。流れは個をいとも簡単に押し流していく。
マサルとシンジのすれ違いは、見ていてとても苦しい。こういうのを説明しちゃうのは野暮だけど、だって監督はせっかくそれを言葉にせず映画にしてくれているんだから、でも二人の道が別れていることが残酷に露にされるシーンでは、感情は過ぎていく時間に決して追いつかないことを思い知らされる。
はじめは馴染みの喫茶店でマサルが極道に入ったことをシンジが知る場面、次はシンジの所属するジムに遊びに来たマサルの背中に隙間無く入った刺青が写る場面。二人は互いの存在を気にしつつ、そこで交わされる科白はない。まさにディスコミュニケーションを描いているから。
だからこそ、冒頭の自転車向かい合い乗りでじゃれ合う二人がひりひりして痛い。どれだけ相手のことが好きでも、世界はそんなことにかまってはくれない。繋がりなんていとも簡単に崩されていく。ラストシーンの二人乗りでは、気持ちはあの時と同じではない。不安定が不安定に寄り添っているのが人間関係だ。
北野映画を観ていると、いつも「それを撮っている北野武」を考えてしまう。作品そのものより、武のことを考えてしまう。彼の底のない孤独。どれほど彼を愛する人がいても、決して達成されることはない相互理解。実際の話、そんなこと人間同士なら当たり前だ。互いの完全な理解などない。けれどそのことでどうしようもない悲しみに囚われてしまう人もいる。深い孤独の中にいる、さみしくてみじめな人。北野監督の地獄に比べたらわたしなんて矮小だけれど、その果てのないさみしさに共振してしまうがゆえに北野映画が好きだ。
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