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[コメント] PVC-1 余命85分(2007/コロンビア)

実話と銘打った愚かなフィクションだとしか思えない。少なくともこういう結末に至ったこの世で最後の例だろう。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 不愉快だったのは、全景が見渡せないこと。カメラの前には、常に何かが視界を塞ぐように映り込んでいる。人物とか壁とか垣根とか。このために、遠くの方まで見通しがきいたり、周辺の位置関係が場所的に把握できたりといったことが極端に少なく、全体像がつかみにくい。もちろん演出として意図的にやっているわけだが、私にとっては生理的な不快だった。観客に先読みをさせないようにし、不安な状態に置いたままで鼻面を引き回すことが狙いであることはわかるが、延々とそればっかりではさすがに意図に気づくし、正直言って飽きるし、無理矢理付き合わされていることを否が応でも認識してしまう。

 さらに言うと、上記のような理由で登場人物のクローズ・アップが多いにも関わらず、常に人物には陰が差していて、表情を読み取れないこと。これはコントラストに問題がある。背景を明るく描いていしまっているために、手前の近景が暗くなっている(もちろん演出としてわざとやっている)のだが、表情が読みとれない人間に、感情移入はできない。突然にして理不尽で悲惨な状況に陥った人間たちの不幸を描くのに、感情移入を拒否しておいてその不幸さを認識させることができるか? 少なくともあえて困難な道を選ぶ必要はないはず。人間の自然な感情の発露を妨げられたようで、これも不快だった。

 映画の演出とは、効果を狙ったものだ。これらの演出が、なにがしかの効果を発揮しているのであれば、それでいいと思う。だが私にとっては、まったくなんの(プラスの)効果もなかった。結局のところ、ストーリー上の大きな穴に気づかざるを得ない。爆弾処理班の警官が、家族を連れて(マイカーで?)現場に来ることも意味不明だが、プロのはずなのにナイフしか持ってないことも不明だ。やすりみたいな物を持っていた方がどんなに作業がはかどるか。時間との戦いであることを考えれば、なぜそうしよう(ナイフ以外の道具を探そう)としないのか。さらに言えば、爆弾を収めたパイプが首周りに嵌められている、という状態を見るだけでも十分に想像可能だが、実際に嵌められた経緯を人質から聞き出しさえしていれば(このくらいのことすら何故か行なわないのである)、中を這う配線コードの長さに余裕のあることはわかるはずである。まず、(ポリ塩化ビニール製の)パイプを二つに分断して、人質の頭から外して後、安全な場所に避難して、ゆっくり信管を外す作業に取り掛かればいいだけである(別にどっかにブン投げて爆発させたっていい)。

 一応、実話に基づく、とされているが、だとしたらこのエピソードは、人間の、いかんともしがたい愚かさを現わしているわけだ。確かに人間は、結果として愚かな振舞いに出ることがある。であればこのエピソード焦点は、人の愚かさだ。なぜ、そこを描かないのか。合理的に考えれば、作り手側も愚かで、この切迫感が間の抜けた人間たちによってこそ産まれ得たことに、気づかなかったからだろう。愚かな作り手が利巧を気取って技巧に走る姿を見せられることほど、けったくそ悪いことも少ない。

60/100

(評価:★2)

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