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[コメント] スリー・ビルボード(2017/米=英)

訥々とした語り口。われわれが本来はみんなわかっていることに、あらためて気づかせてくれる。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







****注意。いきなりネタバレ****

 ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)宛の遺言における告白を誠実なものと受け止めるなら(そう受け止めない理由はないですが)、この世には、捜査を進めたくても進めようのない、手掛かりの「ほとんどない」事件というものが、わりと普通にあるものなのでしょう。少なくとも、無能な警察組織にはびこる恒常的な怠慢や、先入観から来る初動捜査の手抜かりなどを、悪として追及したり、糾弾したりする目的の作品でないことはわかります。

 ミルドレッドが勤める土産物屋に入ってきて、7ドルの小物を投げ壊した輩(ブレンダン・セクストン三世)。この男がもう一度映画に登場してくるとは思いませんでした。でも、この時のミルドレッドとの会話描写からは、こいつが真犯人として描かれているとは思えなかったです。

 ではなぜこの男はこの店にやって来たのか。これは、とりあえず分からないとしておきたい。しかし、この世に本当にいる悪い奴らの象徴として登場させたと、考えることはできるかもしれません。つまり、本作はこういう奴らを批難する目的の映画でもないのです(批難すべきでないと言ってるわけではありません念の為)。

 ジェイソン(サム・ロックウェル)が、酒場で偶然隣に座ったこの男の頬をかきむしったとき、僕は彼の意図をこう想像しました。まずはこいつを挑発して騒ぎを起こし、あわよくば警察沙汰にして逮捕させようとしていると。別件逮捕という発想に浸かりすぎてますかね。彼はもっとストレートに、直接犯罪の証拠に繋がるDNAの採取を考えていました。これがわかったとき、かえってジワりとくるものがありました。

 映画の物語に必ずある、「偶然」や「都合の良い展開」。多くの映画はそういう要素を積み重ねて恋愛が成就したり、悪が成敗されたり、正義が果たされます。でも本作がそうして描いたのは、何と言うか、世の中そうそう捨てたもんじゃないみたいな感覚でした。社会はいがみ合ったり、分裂したり、争ったりしてるけど、一人一人は本当は共有できるものの方を多く持つ。少し視点を変えてみれば、そんな当たり前のことに気づくことができるー。普通の映画的な構成から来るそうした価値観の提示が、ちょっと新しいと思いましたし、時代と向き合っているように感じました。

 ラスト、ミルドレッドとジェイソンは「輩」の住むアイダホへと向かう。でも、本当に奴を殺るかどうかについては、2人共さほど確信がないー。この物語としては、もうこれ以上描くべきことは何もない、完全なエンディングだったと思います。しかしながら、一映画ファンとしては、この後2人は途中で引き返したに違いないと考えたくなりました。

85/100(21/12/29見)

(評価:★4)

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