この作品、観てすぐにはコメントが思い浮かばなかった。面白さが 十分に理解できなかった。しかし日が経つにつれて、とちゅうで哀川翔が演じる人物がいっていた台詞が気になりだした。ようするに地獄はあるといえばあるし、ないといえばない、とかいうものだ。

心霊だってたぶんそうだろう。この映画では超自然的なものは存在する、ということがあたかも自明のように話がすすむ。霊能者もその夫も、そして心理学の大学院生も、それを自明のものだとかんがえている。そして作品をみるわたしたちも、これはそういう映画だとおもってみる。

ところが最後になるとこの映画のなかで本当に、心霊が存在しているか どうかも、うたがわしくかんじてしまう。といえばまだ不十分だ。たしかにかれらがそろって体験した恐怖は現実のものなのである。かれらには霊がはっきりと見える。だがそれがさいごには眼に見えた幽霊の背後にある恐怖にこそ眼がいってしまう。そしてすべての霊がつくりものにみえてしまう。

役所を見るもう一人の役所。あのシーン。どうしても自分の二重性とかぼくは考えてしまうのだけど。生きている自分自身が実感できなくなったときに、別の世界は現実になるのかもしれない。ベルイマンの「野いちご」のシーンをすこしおもいだしたな。「鏡のなかの女」「沈黙」・・・。

観るものを突き放なすような感覚は、この監督らしいところ。