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[コメント] 恍惚の人(1973/日)

有吉佐和子という人は問題作を連発する人だが、これもある意味で社会を変えた作品のような気がしてならない。[フィルムセンター]
Yasu

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は私が生まれる2年前の作品である。

私が育った時代には、「老人はその子ども(おもに長男)およびその家族が面倒を見るのが当然で、実の親を老人ホームに送るなどもってのほかである」とする風潮は、もはや絶対のものではなくなっていたように思う。

もちろん「自宅で家族と一緒に暮らせればそれに越したことはない」とは、今でも多くの人が考えているはずだ。しかし、この作品での森繁久彌高峰秀子のような有様を見せつけられると、当事者(面倒を見る家族)は「そこまでして世話をしていられない」と考えて当然だろうし、関係のない人もまたそれに納得して認めるのが人情であろう。

結果、「現代の姥捨山」としての老人ホームが肯定され、必要以上に老人が家族から切り離されるという事態が起こる。すなわち、最悪(に近い)シナリオを描いたこの作品を隠れ蓑にして、十分家族と同居できる環境にある老人たちが、不誠実な家族によって切り捨てられてしまうというケースも出てきているのではないだろうか。

しかし、家族と同居するのと老人ホームに引っ込むのと、どちらが老人にとって家族にとって幸せであるか、それは分からない。陰惨極まりないこの話にしても、もしかすると家族は、最後まで老人を自宅で看取ることができて満足しているのかも知れないのだ。ラストの高峰秀子の複雑な表情が、それを物語っている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)TOMIMORI[*] 直人[*]

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