[コメント] 悪魔のいけにえ(1974/米)
閉ざされた扉の向こうにある(はずの)、見えないものが少しずつ明らかにされてゆくという演出方法は、ホラー映画のいわば常套手段。「扉の向こうには何があるか」。その場合、基本的にカメラは、扉を開こうとする者の立ち位置と視点に準じて動くはず。扉のショットと、それを開けようとする者のショットとの切り返しを重ねるやり方などがその代表的なもの。扉を開ける者の視点と、カメラの視点と、観客の視点がシンクロし、それにより観客はそのサスペンスを共有することができる。ところがこの映画は、そんな文法通りのサスペンスなんぞハナにもかけず、とんでもない横紙やぶりをかましやがった。
見る者をつきはなす、引きのワンショット。他にも見せ所は沢山あるが、ひとまずレザースキン初登場のこのシークエンスに尽きる。
●扉は向こうから勝手に開く → ●なんの説明もナシにとつぜんレザースキン登場 → ●獲物の顔をゴンッ → ●もがく獲物を問答無用で扉の奥に引きずり込む → ●扉が閉まる
この一連のアクションを、説明的な台詞や描写を排し、従来の文法を裏切って撮りきってしまう強引さ。獲物とレザースキンはスクリーンの奥に消え、扉の向こうに何があるのかは結局明らかにされず、その情景を遠くから見守るほかなかった観客は、一人取り残されたような感覚に陥る。想像をかき立てられ、それが恐怖感をさらに増幅させる。心臓をわしづかみにされる。誰もいなくなった無人の通路と、その奥に無情にそびえる鉄の扉、それを徹底した引きで撮りきった一本のミドルショット。この恐ろしく美しい構図!
これから始まることになる恐怖の追いかけっこの「鬼」の登場シーンとして、めくるめく悪夢ワールドの幕開けとして、またとない演出である。こんなにタチの悪いホラー映画は空前絶後だ。
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