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[コメント] けものがれ、俺らの猿と(2001/日)

カンチガイ独創。
crossage

町田康の小説の楽しみ方とは、小気味よいコトバの連弾が生むグルーヴにひたすら身を委ねること、ひとまずこれに尽きると思う。しかしこうしたグルーヴに乗せて読者を引っ張れるのはせいぜい中編程度の長さまでで、長編でこれをやるとなるとちょっとキツい。読者もキツいし、作者本人にとってもキツい。長編小説には長編小説なりのリズム感というものがあって、そうしたリズム感を構成するための基礎体力と構成力は町田にはないだろうと思われる。町田康という人は、マラソン選手よりは1万メートル選手の資質を持った作家なのだ。

さて『けものがれ、俺らの猿と』であるが、須永秀明という監督はこの作品を映画化するにあたり、あくまで原作のイメージに忠実な「映像」を作ることを選んだようだ。ところがどう原作に忠実なのかというと、原作小説の話法が一人称だからっていうことで、とりあえず登場人物たちに独り言をブツブツ言わせて、そこに一見原作に忠実で、その実たんに監督が原作から「なんとなく」イメージしただけの「それっぽい」映像を重ね合わせてるだけで、肝心カナメのリズム感、グルーヴなんてのはハナからは黙殺されている。

そしてそしてこの原作ってのが、「口からそうめんを出して顔をうつむかせたまま歩いている浴衣姿の女の子の集団」だとか「巨額を投じて作られた左右ツートンカラーの巨大大仏」だとかが出てくる、いかにも美大系の前衛アーティスト気取りが喜びそうな「シュールな」世界なだけに、それを忠実に映像化(しかも永瀬正敏主演で)するだけで容易に「独創的でシュールなアート映画」ができてしまうわけで、「原作に忠実」ならば、そういう安易な手に走ることもありうるな、と見る前に抱いていた危惧はここでまんまと的中してしまった。

そのダラダラ垂れ流される映像の退屈な丹長ぶりといったら、1万メートル走どころか長距離マラソンにすらならないほどの鈍臭さ。原作に忠実に作るっていうんなら、あの原作独特のグルーヴをいかに忠実に再現するか、個人的にはそこに心血を注いでほしかったわけで、むしろここにおいてこそ、言語というメディアにしかできない表現を、いかに「映画的」に表現するか、という「独創」も生まれうるんじゃあないのかと思うのだ。

原作にとらわれず思いきった再構築を施してやろうという映画的創意もなければ、原作に忠実に作るというその忠実ぶりも全くもってイケてない。小手先の表現論的な工夫を施すことが「独創」ではない、と思うのですよ。そのへんについてどうも根本的なカンチガイをしてるんじゃあないでしょうかこの監督は。

あ、ちなみに鳥肌実は確かによかったです。音楽も最高です。好きすぎですああいうのは。でも個人的にはサルが一番よかったかも。

(評価:★1)

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