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[コメント] 華氏451(1966/英=仏)

繰り広げられているのは唾棄してもよいレベルの幼稚なストーリーなのだが、火の色と消防署の赤色、主人公の家の室内のオレンジ色という強烈なカラーレーションが実に奇抜。SF映画としての美術設計も、映画草創期の空想科学映画の古色を帯びかえって斬新。
ジェリー

火の中でにたにたと笑いながら燃えていく老女も、書物のページ一枚一枚がじわじわとめくりあがって黒く焦げていくマクロ撮影の執拗さも、霧の降りた湖のほとりで歩き回る男女も、乏しい記憶を掘り起こしても、紛れもなくここにしかない映像ですばらしい。

しかし一方でこの映画には、トリュフォーがある先達への限りない敬慕を捧げるシーンがいくつかある。たとえば、バーナード・ハーマンと誰が聞いても判る夢幻的なメロディーと不安げなリズムに彩られて、ズームバックしながらドリー撮影でゆるゆると前に進むキャメラによって小学校の無人の廊下が映し出される。これを見て『めまい』の鐘楼の内側を上から撮り下ろしたシーンを思い出さざるをえなかった。キャメラの動きは『めまい』と全く逆なのだが、(『めまい』ではズームアップしながらキャメラは後ろに引かれていく)このゆるさがまさにヒッチコックのリズムなのだ。トリュフォーがヒッチコックに長時間のインタビューを行ったのはこの時期ではなかっただろうか。そう思って書架の「ヒッチコック/トリュフォー 映画術」を開いてみたら、ああやはり、1966年の刊行なのだった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)緑雨[*]

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