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[コメント] グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札(2014/仏=米=ベルギー=伊)

超絶的な美女が超絶的な美女を演じるという映画の肝がわかりやすい。確かにニコール・キッドマンの眉やヘアスタイルには、グレース・ケリーの往年の面影があって満足だった。しかし、彼女が本人に瓜二つというわけではない。きっぱりとニコールという女優の個性を打ち出した上でのグレース妃の役作りとなっている。
ジェリー

吐き気を催すほどだらしなく全体がアルフレッド・ヒッチコックに似すぎてしまったロジャー・アシュトン・グリフィスとは違うのだ。もちろん、演出はニコール・キッドマンの似せ方とロジャー・アシュトン・グリフィスの似せ方をあえて変えている。この違いにより主役スターの大きさが浮かび上がってくる仕掛けだからだ。

この映画をキャリア・クライシスを乗り越えた一女性のドラマという、今日的テーマからの見方をすることはもちろんできる。しかし、昨今のハリウッド映画の新たなチャレンジである、実在人物を織り込んだフィクションへのアプローチという流行の中の作品として読むことがやはり面白い。マーク・ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブズと比べると、グレース・ケリーあるいはレーニエ大公という人選はずっと意表を突いた感じだ。余談ではあるがしっかりとした訴訟対策をうっていることは明白で、映画製作における法務部門の存在感が極めて重いという点では珍しい作品。

この作品の中で描かれ方が興味深かったのはレーニエ大公とその親類一族である。高貴の血筋の人間のもつ不可思議さ、不気味さはよく表現されていた。そしてその意味ではこの作品はとても古典的である。映画というメディアが王族や政治家を不気味な異物として描くという過去からのスキームから微動だにしていない。これが映画に安定をもたらしている。映画の基本文法通りにレーニエ大公を硬質な影を持つ複雑な人物として演じたティム・ロスは見事の一言だ。彼の目の奥は、読めない。

ラストの演説のグレース妃の極端なクローズアップにも陶然となった。淡いバラ色に輝くカラーレーションも見事な映画だった。つまり愛すべき佳品である。

(評価:★4)

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