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[コメント] 堕天使のパスポート(2002/英)

ジーザス!と言う代わりに、オレたちはアラー!と言う。と聞いていたのだが…。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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今作でいきなりオドレイ・トトゥのファンになった。ただただ素晴らしかった。ホンモノのトルコの人から見ればいろいろと違うのかもしれないが、私の目から見た彼女は立派にトルコ難民だった。もし私がオドレイ・トトゥというフランス女優の存在を知らずにこれを見ていたら、きっと彼女のことをイスラーム圏出身の人だと信じただろう。台詞の感じのみではなく、あの表情や仕草など、すべてが「イスラームの国からやって来た移民の女性」にしか見えなかった。特に主人公の顔真似をする場面は格別で、いかにも「あっちの人」だなぁと思った。また、言わずもがなだが主人公を含め他の役者も最高だった。別に演技合戦映画というわけでもないのに、工場のおやじや同僚たち、ドイツ人観光客までもがパーフェクトに思えひどく興奮した。

内容についても、ファンタジーな部分はどこまでもファンタジーなままの物語ではあったものの、細かい部分ではけっこうリアルだったりもして、そのバランスのとり具合がとてもよかった。そうそう、ここぞというときの通訳は子どもの役目だったりするんだよね。とか。そうそう、ライオンやゴリラの話にはもううんざりだって言ってたよね。とか。そういったジャブのような軽いネタも込みで、実はかなり入念にリサーチしてあるように思えた。移民局(日本の場合は入管なわけだが)の対応なども、きっとどの国も同じようなものなのだと思う。

で、その小技的な野生動物ネタやいくつかの宗教ネタ等にも関係してくるわけだが、主人公の祖国をアフリカ某国などとはせずきっちりナイジェリアと設定してあるのも巧いなぁ。と思った。たとえ詳しくは知らずとも、あの国がクーデターや内戦を繰り返していたことは(少なくとも欧州では)有名なはずだし、だからこそかえって生々しさも増すし彼の過去や最後にとった選択もかなり納得しやすいよね。みたいな。ただ、そういった意味で、これは欧州の移民政策事情やナイジェリアやトルコの政情等に疎いと少しわかり難いかもなぁ、とも思えた。

ともあれ、ガチで真っ赤な『ブレッド&ローズ』のような映画もそれはそれでよいが(ローチのそういった芸風も大好きだが)、この『堕天使のパスポート』に対する監督のコメント「あくまで娯楽作品としてつくりたかった」という言葉には、さらにヤられてしまい妙に嬉しくなった。「そっちの方が多くの人に見てもらえるし、それで彼らのことが少しでも伝わればそれでよいんじゃないか?」といったこの軽やかなスタンスこそに、そのように公言しつつも「おもしろがらせるためだけのひどい誇張」などは決して入れてはいないということに、かえってフリアーズの真摯な姿勢を見たというか。本人は今作品との関わりを否定しているけれど、だてに『マイ・ビューティフル・ランドレット』のフリアーズじゃないんだなぁと。

(評価:★5)

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