[コメント] ロビンソン漂流記(1952/米=メキシコ)
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原作通りに話は進むけど、
犬や猫は愛でてもネズミには容赦ない主人公ロビンソンの姿勢とか(これはフライデーとその仲間たちの登場を前にした、ひじょうにわかりやすい伏線とも思う)、スクリーンいっぱいに映し出される虫のアップとか(ロビンソンの孤独や弱肉強食のことわりを表しているのだろうけど、いかにもザ・ブニュエルなカットだよね?)、「よっ、待ってました!」と掛け声を発したくなるほど素晴らしい悪夢のシーンとか(父親が水に浮かぶ様はなんともグロテスクでこっけいでぎょっとさせられる)、お決まりの神についての問答とか(フライデーの無邪気なつっこみにあたふたするロビンソンが実にかわいらしい)、ブニュエルらしさがそこかしこにチラチラ顔を出す。
それだけでもブニュエル好きとしてはワクワクするのに、前半の徹底した人間不信、全編を通して語られる孤独のありように、更に心をつかまれてしまう。自分は海という檻に囚われているのだとつぶやくシーンや山びこのシーンなんて泣きそうにさえなったよ私は。ああ、これはまさにブニュエルの、ブニュエルによる、思いもよらない事態に陥ってしまったひとの映画なんだなあと。
ロビンソンが案山子に女性の服を着せてハッとし、しばらく後の場面でフライデーがドレスを身につけはしゃぐ様に激昂するのも興味深い。え、この二人の主従関係には性的要素も含まれてしまうの?なんて、子供のころハラハラドキドキしながら原作を読んだときには思いもしなかった想像までしてしまったけれど、それは私が汚れた大人になったからだけではなく、ブニュエルの撒いた種に導かれたからでもあると断言したい。序盤で猫が出産し、「相手がだれだったのかいまだ謎である」とコミカルに語る場面もあったしね。
島を離れるときに聞こえる犬の鳴き声もだけど、鏡を見て自分が過ごした年月を実感するところもよいよね。浦島太郎の玉手箱に入っていたものは、煙だけではなく鏡だったのかもなあとふと思ったりも。
とにもかくにも、本当におもしろかった。時代的に難しいところもあるかもだけど、ブニュエル入門としてもオススメ!
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