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[コメント] リメンバー・ミー(2017/米)

マリーゴールドの花びらがふりしきる魔術的リアリズムただよう美しさ(まさにガルシア=マルケス「百年の孤独」におけるホセ・アルカディオ・ブエンディーアの死を想起させられました)や入国&出国ゲートでのレトロフューチャー感あるお茶目さときたら!
tredair

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フリーダ カーロによるコンサート演出の豪華さやちょこちょこ映し出される見慣れない食べ物なども含め、画面の隅から隅までたのしめる目にたのしい作品でした。

とはいえ私も物語の展開にはついていけないものを感じました。

音楽を志し共に行動していた若者たちが仲違いし袂をわかつという話はよくあることなので(たとえばブラームスとレメーニの話はけっこう有名だと思います)、せめて別れ際にヘクターが病に伏したもののデラクルスは助けることなくノートを盗んで逃亡、というくらいの出来心ありきの消極的な悪事にとどめておいてほしかったです。

あともう少しで夢がかなうというのにどうしてここであきらめてしまうのかというヘクターへの不満や困惑、主に曲作りを担当していただろうヘクターがいなくなってしまうという今後の活動への不安、彼の才能への嫉妬や羨望…。これがピクサーアニメではなくアメリカンニューシネマなら、家族のもとへ戻るというヘクターに対するデラクルスのゆがんだ愛情も表現されていたかもしれません。

ともあれ、ゆがんだ愛情うんぬんとまではいかずとも、デラクルスにはデラクルスなりの思い、葛藤があってしかるべきなのに、そこがほとんど描かれていないのが残念でした。そこをもう少し丹念に描きこんでほしかったです。

また、デラクルスは曲をつくる才能には恵まれていなかったかもしれないけれど、彼にはヘクターとは違う圧倒的な華、スター性があったように思います。

「リメンバー・ミー」は、彼が歌ったからこそ大ヒットしたのですよね? どんなによい曲だとしてもチャンスなしには、歌い奏でるひとの実力なしには大衆のもとに届かないし響かない。さすがエンタメ大国アメリカ、そこはふたりのキャラクター造形などでもきっちり表現されていて、なればこそ疑問を感じもしました。

死者の国に行く前のミゲルにとって、デラクルスの存在は神のようなものでした。曲だけでなく映画も繰り返し見ていたくらいなのですから、楽曲はもちろん、歌声や演技、存在そのものも大好きだったのだと思います。

ミゲルと同様、彼の歌声や存在に救われていたひとは他にもきっとたくさんいたはずです。事実、たくさんのファンからの贈り物をデラクルスが誇らしげにミゲルに自慢する場面もあります。

だからこそ、その設定まで無にしてしまうかのような「デラクルスを圧倒的な悪人とする」話の運びには辟易としました。現実世界に戻ってももはやヒーローではなくなっているデラクルスの存在に(楽曲を盗むために毒をつかってまで人を殺したのですから仕方ありません)、なんだか胸が痛みさえしました。話の序盤では溺れそうになったミゲルをなりふり構わず救いだしてくれたくらいなのに。

話の都合上、途中から極悪人にされてしまったデラクルスのことを、彼にも良心はあったはずだという希望とともに私はできるだけ憶えておきたいと思います。

(評価:★4)

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