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[コメント] リメンバー・ミー(2017/米)

ぼくを、わたしを、おぼえていてほしい。誰かが誰かであるために、必要な記憶。それは弱さでも強さでもあり。煩わしさであり喜びでもあり。つまり呪いであり、祝福であり。家族と人の陰と陽、その二面性が、「陽気でカラフルな死者の国」と「音楽」という絶好の二面的装置で語られる。死者と生者の間には、無数の「赦しのひとひら」が降り積もっている。そのマリーゴールド・オレンジ、記憶の温かさと切なさ。傑作。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ボロい天井裏、ロウソクの薄明かりの中、古ぼけたVHSのビデオデッキで往年のスターのミュージカル映画再生して、耳コピ・自作のギターでセッションする。ずるい。どう考えてもずるいよなあ。序盤からメキシコの綿密なロケ調査に裏打ちされた濃密な画面で、これをやらかしてくれるのだ。

予告編とタイトルを知った時点から、「これはわたしの涙腺を完膚なきまでに破壊する映画だ」と確信的な予感を持って臨んだ。果たして、ギターを隠れて爪弾くシーンからわたしの涙腺はだらしなく緩んでしまい、その後の記憶と音楽に関する活劇の充実の予感も裏切られることはなかった。泣く気まんまんで臨んだわたしの中でのハードルは、低いよりもむしろ高かったのだが、余裕でそのハードルを越えてくれた。

実際に、死者の日の装飾が華美で賑やかなのは知っているが、その裏にある意図とか伝統については知識がない。ただ、本作で読み取れたのは、この狂騒と彩りが、生者の国に届くように、覚えていてほしい、忘れられることへのおそれの裏返しという意図で設定されたものということ。騒げば騒ぐほど切ないのだ。上層の狂騒と下層の沈滞の対比がされているが、実は、忘れられることへの恐れという点ではさしたる違いはない。こういった二重性は映画に深みを与える(個人的には『ブギーナイツ』を例に挙げる。そういえば、あれも家族の映画だったな)

人はいつでも痕跡を残そうという欲求がある。生きた証という表現もできるだろう。そういうベタついたのは嫌い、という人も多かろうが、意識するしないに関わらず、これは根源的なことなのだ(なぜ、写真や、本や、記録を残すのか)。例えば、真に「孤高の英雄」などというものは存在しない。彼が「孤高の英雄」足り得るのは、それを覚えている人がいるからだ。人は記憶の中で生きる、むしろ記憶と記憶の相関の中でしか生きられない。記憶が人と、人の歴史を定義づける。そして、デラクルスの例のようにその記憶は捏造され、人を呪縛することもある。これは人の宿命的な弱さである。記憶の死こそ、真の死なのだ。

しかし、ヘクターとココ、イメルダとミゲルのように、その弱さを克服し、家族の絆を修復する強さもまた、記憶である。記憶とは、ここでは即ち、音楽である。

音楽(記憶)の力を侮ってはならない、という台詞が最後まで効いている。それは、人を生かしもするし、狂わせもする。デラクルスに道を踏み外させ、ミゲルとココに力を与えたのも音楽である。陰と陽の両輪として提示されるから、ココにミゲルが歌う「リメンバー・ミー」は重層的で巨大な感動を喚起する。弱さの肯定であり、赦しという強さなのだ。

ぼくを、わたしを、覚えていてほしい。その愛おしいみっともなさ。

ミュージカルシーンの素晴らしさには目を見張るものがある。テーマやシチュエーションから強い力を得ている。ヘクターとミゲルの初セッション、なぜ二人は息が合うのか。先が読める展開で、果たしてそうなるからこそ、感動が先取りしてやってくる。そしてステージ上、数十年ぶり、イメルダ×ヘクターの記憶と赦しのセッション。「ああ、色々あって、アンタじゃなきゃダメってことでも結局なかったけど、一周回ってやっぱりアンタなのよね。ちょっと遅すぎたけど。」というイメルダの複雑な感慨。ここにデラクルスとのバトルがミュージカルのまま、並行するんですね。こういうのこたえらんないです。これがミュージカルだと思います。イメルダのソロ歌唱のシーンも素晴らしい。ヘクター×ココ、ミゲル×ココも言うまでもなく。もうダメでした。文句なしの傑作だと思います。

あ、あと、靴でデラクルスを張り飛ばすイメルダとミゲルのばあちゃんが相似しているわけですが、こういう、「家族の特殊な伝統」が持ち込まれる映画って、いい映画が多いですよね。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus おーい粗茶[*]

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