[コメント] ターミナル(2004/米)
アメリアという女性が出てくる。アメリア=アメリカなのだろうと思う。とにかく忙しいスチュワーデス。夜も昼もな時差の中に彷徨う女性。空港職員が悪びれて「さかりがついている」というような表現だったか、そういう対象としてのアメリカ。それが彼女なのか。その不安定でいながら「待つ」という行為をセリフの中に表現するゼタ・ジョーンズはなかなかうまかった。これも自然体に見えた。
スピルバーグは『シンドラーのリスト』と『プライベート・ライアン』と、そして『A.I』で相当疲れてしまったのだろう。ここのところ意識して軽い映画を作り続けている。『マイノリティ・リポート』にしても素材の新しさを感じるが、前述三作品に比べれば軽い。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』と本作においてはもっと軽い。しかしこれだけの巨匠がこれほど自然体に軽い映画を作ることはかえって難しいことだ。この映画でもスピルバーグの子供心が見え隠れする。ハンバーガーをむさぼる、クッキーを大事そうに食う。こういうシーンを大切にしているところがスピルバーグらしさなのだと思う。
今回の舞台は空港のターミナル。これをセットで組んだという話も驚きだが、やはり冒頭のシーンでハンクス扮するビクターが一人空港に取り残されるシーン。カメラがずーっと引いてゆく。そしていつの間にか画面から消えてしまうビクター。このシーンの驚き。カメラはいったいどのように動いているのか?ズームなのか?この雑踏のシーンに飲み込まれる孤独と恐怖。この恐ろしさ。かつて子供的な映画ばかりを作ってきたスピルバーグの大人びたシーンと見受けた。
彼はエンターテイナーである。映画のリズムとかテンポが早く、見るものを飽きさせない。彼がどれだけ映画を愛し、映画が好きで好きで、そして映画に命を注いでいるかがこの映画でもわかる。軽率なシーンもたくさんあったが、このリズム、このテンポ、そして最後の空港職員達に押されてアメリカ(ニューヨーク)の土を踏もうとするあの感動的なシーンを大切に大切に盛り上げようとするテクニシャン。
これはトム・ハンクスでなければスピルバーグの子供っぽさを表現することはできなかったであろう。
この二人、よくよく考えてみればいずれも子供である。『ビッグ』で演じた彼の素晴らしさ。それはこの映画で(もしかしたら)結実したのかもしれない。トム・ハンクスを見ていると、その履歴が見事にスピルバーグと符号する。子供から大人へ。そして再び童心にかえるがごとく輪廻しているような関係を見る。
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