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[コメント] 東京暮色(1957/日)

小津安二郎監督の演出する「東京」は、見た目より中身が苦しい。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







印象的なのは有馬稲子さんの暗くて低い台詞回し。

なんて辛そうな、なんて苦しそうな声なんでしょう。

有馬稲子さんの普段の姿からは想像できないような苦しい演技。これはすごい挑戦だったのでしょうね。驚きました。

結論から申しますと、この妹が崩れてゆく理由は単純で「母親不在」によるものですね。

家を捨てて出て行った母親が突然目の前に」現れて困惑するのは当然で、その怒りや憎しみをどこの誰にぶつけてよいものか当然のように迷いますね。かわいそうな女性です。

小津安二郎作品においてはかなり暗くて現実的なお話になっています。本当のドラマを追求しようとした目的と、日本の都市における機能が破壊されてゆくことを強く暗示していたようにも受け取れます。

もともと小津作品は、起伏のない展開と当時の風俗を描写しながら現実味をおびたお話で展開し、最後は松竹映画らしい予定調和的なハッピーエンドで終わるというのが定石ですが、この作品では思い切り現実を露見させて、とことん落ちてゆく若い女性を描いていますね。

堕胎や死など、とても小津作品とは縁遠い展開を丁寧に回り道しながら演出しているところに、より深い印象を残す作品となっていました。

姉の原節子さんが、自分たちを捨てた母親に妹の死を伝えにくるシーンがとても強烈です。

今ほど荒んでいない東京の未来を当時から暗示していた苦しい映画ですね。

東京物語にも同系の苦しみが存在します。

そしてこの作品を境に松竹で映画を撮ることを敢えて離れて東宝や大映で映画を撮り、しかもシロクロからカラーに挑戦してゆくんですね。

大きな転機となった作品だと思います。

2010/04/05 自宅

(評価:★5)

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