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[コメント] エッセンシャル・キリング(2010/ポーランド=ノルウェー=アイルランド=ハンガリー)

カメレオンのような美しさ。至高の芸術。(2012/3/31)
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公の衣装が芸術的だ。

砂漠で逃げ惑うときの色。囚人服のオレンジ。闇夜を逃げる黒い服。雪山をさまよう白。この対比と自然の風景を一体化させた美しさ。

ただ単に「逃げる」という行為だけでもたせる映画。

逃走者の心理は全く言葉で示されない。時々浮かぶイスラム教の教えだけが暗示されるのみ。

アンナと過ごした四日間』で示された暗示。人間の深層心理に深く根ざした現実逃避。

過酷な雪山で蟻を食べたり、樹木の皮を食べたりする行為は追い詰められた者の極限を司る。

アッラーは預言者といわれる。逃走する主人公が幻想の中でみる木こりわを殺害したときの血しぶきや、川を流れる青いカーテンのような布をまとう女性はいずれも現実となる。

最後は雪の輝きと白馬が白い景色を横切り終わる。

この映画は全く何も語らずに終わる。

しかしエンドロールで蘇るのは、何も語らない主人公と対比するアメリカ兵の英語、木こりたちのロシア語。主人公はイスラム圏の男。

この宗教的な暗示が世界のアンバランスをゆったりと示す。

主人公が最後に駆け込んだ小屋の女性が聾唖者であるのも暗示的だ。

何も語らない中東国のイスラム人が西欧諸国からの弾圧に耐え無言の抗議をするがごとき強いストーリーになっていた。

満点!

(評価:★5)

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