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[コメント] ハッシュ!(2001/日)

小津安二郎の情景が浮かびました。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ぐるりのこと』で橋口亮輔作品に触れました。

あの作品がぐるりとするのは、その奇妙な世界観ではなくて、映画そのものからいずる空気なんだと思います。

そしてこの作品で、それが確信になりました。

お話のスジは女性を中心としていますが、この主人公が女性であれ男性であれ、そんなことは関係ありません。

自分の存在が世間から否定されれば、いつでもこの映画の3人の仲間入りをすることができるんでしょうね。

ペットショップのアルバイトさんが「ぬるぬるですよーー」という台詞で巧妙にこの映画全体を物語っています。この映画全体がぬるぬるなんですね。出てくる人物がそれぞれ頑なにぬるぬるしています。

かといって、すべてが秩序を乱しているのではなくて、兄嫁の厳しい姿勢とか、時折見せる小津安二郎を彷彿とさせる短い風景のショット。これらは、この作者が秩序という日本の風景を丁寧に描いている証拠でもあります。

しかし、この兄嫁の行動に、日本の現代が写されます。

散々、この映画に出てくる人物の一人一人を罵倒し、自分の家庭を守ろうとする強い姿勢をあらわしながら、夫が亡くなると一瞬にして家を売り払い自分たちだけ消えてしまいます。夫が亡くなったことを電話で伝えるときのシーンが見事ですね。足の裏をかきながら、「お兄さん亡くなったんよ」。

これが現実である。所詮秩序の中で秩序を守ろうと意識していても、後ろだけがなくなればそれでおしまい。秩序も何もありません。

このシーンの後、夕方川原へ3人が連れ立って歩くシーンはすばらしいですね。そして兄を失った弟は川原のほとりで慟哭します。それを慰めるでもなく、かばうでもなく、ただただ背中をさする残りの二人の男女の姿が印象的ですね。本当の愛情とはこれなんでしょうね。ワンシーンワンカットで包まれた緊張のシーンですが、よく撮れていました。

要は、家族を守ったり子孫を繁栄させたりする行為と愛情は別物なんですよね。それを秩序とか家風とかで縛ろうとする行為からスピンオフした人たちの集まりが、今の日本を象徴しているんだと思う。

片思いで恋焦がれる少女。これも秩序に固められた典型です。だから好きな人にネクタイを渡そうとして断られると、それを踏みにじる。断られた相手に大声で「私死ぬから!」と叫ぶ。これが一過性の感情だったとしても、もしかしたら20年前であれば成就したかもしれない恋する思いが現実という壁に跳ね返されました。

スポイトを使うかどうかは別にして、こういう関係を許す世の中にならざるを得ないのが今の日本なのではないでしょうか。

2010/03/06 自宅

(評価:★5)

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