コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 青い凧(1993/中国)

”新しい凧を買ってあげるよ”
町田

主人公・鉄頭少年にとって家族、特に父親は、買い換えれば済む凧のような存在でしかない。少しでも操作を誤れば上空(=大人の世界)に吹き荒れる強風(=文革)に吹き飛ばれ、庭木に吊るし上げられる、なんとも頼りない存在です。そして実際、凧のように2度も「買い換えられ」ます。(*但し、第二部での父親・李(リー)のみ凧でなく燃え尽きる提灯で暗喩されています。これは病死した彼が文革の直接的被害者ではないからでしょうか。ともかく、ここでも「新しいのを買ってあげる」との台詞は登場します。)

国家による言論弾圧や思想統制の恐怖は、ハリウッドなら赤狩りを取り扱う作品、日本なら戦争映画の中で何度も取り上げられていますが、中国映画『青い凧』はそれとは正反対の側(=共産主義体制)から同じような悲劇を炙り出す、なんとも皮肉な作品です。(ただ本作品は文革期という実在の時代を扱いながら、「敵」を一つに限定せず普遍化を許す程度に巧くぼかしてあります。)

ラストでボロボロになってしまった凧は、勿論、ボロボロになってしまった三番目の家族の姿に他なりません。反抗期特有の無関心を装い放って置くうちにボロボロになってしまったのです。家族は凧ではない、凧のようにもう買い換えることは出来ない。母を失った鉄頭少年は遂に悟るのでした。

そういうわけで、僕には、本作は反政府映画である以上に、母性の強さを描いた「女性映画」であり、少年の成長を追った「通過儀礼映画」と思えるのでした。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] ことは[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。