原作よりも、スーダン面白かった。僕は原作にそれほど愛着がないもので…原作の好きな人には必ずしもいい評価は得ていないようだが、僕は活字と映像とは切り離して評価すべきだと思うので、原作とは離れていても素晴らしい映像化ならばそれでいいと思う。

ピーター・ユスティノフのポワロも、原作のイメージにはそぐわないが、貫禄があって、デヴィッド・スーシェよりもスーダン好き。原作のイメージから離れているからだめだという意見もあるが、映画版ポワロとして考えると彼ほどぴったりの役者はいないと思う。彼の存在感は驚嘆に値すると思うし、彼のフランス語を交えた話し方を聞くだけでも楽しい。ジョージ・ケネディに「ボルネオでもいい」と言われた時の驚いた表情と、フランス語で「ジェ・ファン」というときの満足げな表情が忘れられない。同じピーター、ピーター・フォークと共に僕の最も好きな役者さんです。彼は本当に素晴らしい俳優だ！

ベティ・デイヴィスさん、『何がジェーンに起こったか？』以来久々に拝見いたしますが、上品になられて。ああ、良かった。

ポワロのことをずっと「ミスター・ポリッジ」と呼び、自分のことを「最後の探偵」（Final Sleuth）と言い、後にジェシカおばさんを演じるアンジェラ・ランズベリーはもうこの頃から老け役をエキセントリックに演じて楽しませてくれる。

その他にもグレイス・ケリーと共にスリラー映画の似合う女優ＮＯ．１（と勝手になずけている）のミア・ファロー、イギリス映画には欠かせないバイ・プレイヤーで『名探偵登場』では夫婦役を演じていたデヴィッド・ニーヴンとマギースミス、それにオリヴィア・ハッセー、ジョージ・ケネディ、ジャック・ウォーデンまで本当に贅沢なキャスティング。しかしキャスティングでいうと一番おいしかったのはミスター・チョドリー役の人じゃなかったかな？ポワロの髭を見て「素敵なドイツ風」と言って、逆に「君には探偵の才能がない」と言われているんだから。

ちなみにサイモンがポワロのことを「ＭＲ．Ｐ」と呼ぶのは、おそらく発音がしにくいからなんでしょう。

冗長な感じのする原作を手際よくまとめた脚本が素晴らしいと思っていたら、『探偵／スルース』のアンソニー・シェイファーではないか。納得。演出・演技・脚本・音楽・撮影どれをとっても文句をつけようのない傑作。当然クリスティ映画の最高傑作（と言っても成功しているのはポワロやミスマープル物ではない『情婦』を除くと、本作と『オリエント急行殺人事件』だけではあるが）。オール・パーフェクト！と言いたいが、そこまでは行かない。犯人をばらしてしまう恐れがあるのであまり詳しくは書けないが、サイモンの心理が不可解であることだけは言っておこう。（注）

それにしてもポワロさん、いつもフランス人に間違われていて、お気の毒。そのたびごとに訂正するところなど、彼のベルギー人としての誇りが感じられます。

それにしてもDVDはいいものです。ビデオだと何度も見ていると擦り切れてしまうし、LDはDVDが出るまでの過渡期的なものだったようだし…ただし『MR．BOO』シリーズでもそうだが、なぜ日本語吹き替え版収録がないのだろう？ビデオで吹き替え版があるものしかDVDで吹き替え収録がないようだ。テレビ局とも協力して収録すればいいのに…

本当に好きな映画ほど、他人の評価が気にならないものだ。逆に好きな人が少ないほど愛着が出てくる。

パンフレットからの引用はあらすじへ

（注）

サイモンがリネットに惚れてジャッキーを振った「演技」をしているわけだけど、サイモンがリネットに本気で惚れてジャッキーを本当に捨ててしまう可能性だってありえる。そこら辺の、二人が本当に信頼しきっているところをチラッとだけでも描いて欲しかった。

殺人を犯すにあたってポワロに睡眠薬を飲ませる一方、思い出して欲しい、リネットを先に寝かせて数分もしないうちに、発砲事件を起こし、リネットを殺しにいく。ファーガスンが銃声を聞いて駆けつけたように、リネットも眠る事が出来ずに起きている可能性も考えられる。入念に時期を見計らって犯した犯罪にしてはちょっと危なっかしい面も大有り。（まあ、普通に夜中にでも殺害して「もっとも大きなゴミ箱」である海に捨ててしまえばいいじゃん、なんて野暮なことは言いっこなしでね、最後の謎解きのカタルシスがなくなってしまうから）

あと妻が死んだのにあまりにも冷静なサイモン。もうちょっと演技しなきゃね。