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[コメント] ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(2017/米)

イデオロギーではなく「実践」としての民主主義のありかたが示される。図書館は単なる本の貯蔵庫ではない。生きるためのあらゆる知識を提供する場なのだ。だからたまたま本も置いてあるのだ。図書館の設計/運営を受託した建築家のそんな言葉に目から鱗が落ちる。
ぽんしゅう

問い合わせに電話で応対する司書(?)たちの知識の豊富さと的確な対応力。所蔵される本以外の書類やビジュアル資料の圧倒的な物量。トークショウ、講演、実演会、演奏会、さらにはブロンクスの市民の就労支援のために消防署や医療センターが職員を募集する就職説明会まで、開催されるイベントの多彩さ。市民たちの生活のため、そして、主体的に生きるために提供される「情報と智恵」の多様性に圧倒されました。

そんな「情報と智恵」を、平等かつスムーズに市民に流通させるためにディスカッションを重ね、知恵を出し合う運営スタッフの真摯さには感動すら覚えます。そのなかで、「公共」と「協働」という、ふたつのキーワードが印象に残りました。

この図書館は、公営ではなく「公共」を旨とする施設(独立法人)だということ。予算の半分は市の出資なので、運営の半分は市の方針に従う。だが残りの資金は市民の寄付によって成り立っている。だからもう半分は、市民の要望に沿って市民のために運営されねばならない、とスタッフは断言する。その明確な徹底ぶりに、役所のいうことは半分だけきいていればいいのだという「公共」の矜持を感じます。寄付文化が根づいたアメリカのこととはいえ、なにかといえば公営(お役所)頼りで、そのサービスの限界に文句ばかり言っている私(日本人)は、真の「公共」の意義を突きつけられた気がしました。

もうひとつは、催し物は図書館と各分野のプロフェショナルとの共催ではなく「協働」で実施されるということ。ややもすると責任が曖昧になりかねない共催(共同)関係ではなく、それぞれの得意分野を活かしながら責任を持って働きかけるプロフェッショナル(協働)関係を維持しながら「情報と智恵」を提示するということだろう。目的、手段、責任を明確化することで「情報と智恵」を必要とする人に容易かつ正確に提供でき、その効果の測定/検証までも可能にするということ。一方的に「情報」を示すだけで目的を遂げたと思っている“上から目線”の施策とは大違いです。

今年、いちばん勉強になった映画でした。

(評価:★4)

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