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[コメント] エゴイスト(2022/日)

情景描写は最小限に止められミディアムかアップで顔が捉えられ登場人物の表情が繊細に描かれる。表情への注視は、私(観客)の視線を彼らゲイカップルとその母の閉じられた心の内へ内へと導いていく。立ち現れるのは本人たちも気づかなかった互いの純化された想い。
ぽんしゅう

想いをつなぎ留める手段として金銭が使われる。金銭は何に対して支払われたのか。初めは直截的な愛欲のためだった。そして事態は変化する。愛する者(宮沢氷魚)を媒介に、自分の思いが言葉にならない恋人(鈴木亮平)と母(阿川佐和子)は、謝罪とも自衛ともとれる"ごめんんさい”をひたすら繰り返す。あいまいだが、ある意味、正直な言葉だ。緊張感が溢れるスリリングなシーンだった。

その戸惑いの応酬をきっかけに、恋人の一方的な愛欲は互いを慈しむ恋慕に代わる。自分を満たすための愛のようなものから、互いに相手を満たしあうための愛へ。そのとき浩輔(鈴木亮平)の施しは浄化され、彼は自らの"愛情"とその対象を回復させる。セクシャリティをきっかけに、無償の愛という関係を見失った男が「狭く小さな世界に、だからこその無限の愛」を発見する物語。この説得力の源泉は鈴木と阿川の好演に尽きる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ダリア[*] なつめ[*]

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