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[コメント] 蜘蛛巣城(1957/日)

翻案家黒澤の功罪。
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







必死(文言通り)のラスト・シーンに三船は激怒したというが、それだけではあるまい。この話の三船は己の欲望に身をまかし滅び去る愚かで小心な王である。ものの怪の予言に心乱し、妻の妄言に取り憑かれ運命通りの最後を遂げる。こんな役柄はそれまでの三船と合わない。豪放磊落、心持ちの綺麗なドラゴンボールの孫悟空のようなキャラクラーが三船の持ち味なのだ。青年三船は悩んだり叫んだりする役もやっている。役者はなんでもこなさなければならないと言っても、これはないだろう。と勝手に妄想してみる。

マクベスは粗筋を読んだだけだが、名誉心や欲望のために身を滅ぼす人間を描いて救いがない。預言者の言うことに逆らえない話の展開は予定調和の確認だけでおもしろくない。滅亡の様をいかに描くかに精力をそそぐことになる。その点は完璧でまったく文句はない。シェイクスピアの名セリフを期待すると失望するが戦国武将の吠え声だと思えば、話はよくわかるように作られている。人間の自由意志を期待している私として、動く森に炎の火を放ち運命に逆らう人物像を生かして欲しかった。ならば三船も不満は言うまい。

この映画では音が大変効果的である。鳥の泣き声、駆ける馬の蹄、布ずれ、甲冑、そして風。せりふにたいしてあれほど配慮しないように見える黒澤の作品でこれらの音はすばらしかった。また幻想的なシーンも、他の作品の夢の出来と比べると異色の出来だ。翻案ものの利点がここに現れているように思える。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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