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[コメント] オリバー・ツイスト(2005/英=チェコ=仏=伊)

ボードゲーム「天使と悪魔」
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







レモニー・スニケット』といい、本作のような悲劇を楽しむ雰囲気と言うのは最近の一つの流れなのでしょうか? 楽しい音楽と言い、私はニヤニヤしながら観てました。

悲劇と喜劇。作家によってはそのアプローチで意識的に喜劇を悲劇的に描いたり、悲劇を喜劇的に描いたりすることがある。 映画的にはコメディの中に泣ける要素を盛り込む作品のほうが多く、普通その方が受けがいいだろう。逆の場合も少なくなく『ロミオとジュリエット』などはその一例だと思う。ただトリックが悲劇を生んだこの名作は悲劇的要素のほうが濃く皮肉を感じさせず後味も悪くない。

本作のように、悲劇の中に強く喜劇を意識して描く作者は皮肉屋が多いと思うのですが、ロマン・ポランスキー監督はどうもその気配がある。私的には音楽も映像もマッチしていたし、十分に「あり」な作風だと思う。

さて、本作の悲劇は、現状を受け入れるしかないオリバー少年よりもその周りの人に降りかかる。特にナンシーは性根が良かった故に迎えた如何にも残虐な最期であるのに対し、ビルのほうは高みに逃げた挙句、犬に吼えられて首吊りになってしまう。私としては、ナンシーにはやはり生き残ってほしかったので悲しかったし、ビルには案の定で笑いました。対照的な演出です。

更に、フェイギン爺さんに至っては、面倒見が良く優しくも、貪欲で酷な小悪党だったわけですが、ラストでその絞首刑を前にしたフェイギンにオリバーは涙する。このエンディングに泣けるか?と言うと泣けないし、笑えるか?というと笑えない。悲劇にも喜劇にもなっていないドラマ。 呆然としているところで例の楽しいメロディが流れるわけです。もう、狙っているとしか思えない。

もう一つ、本作はロードムービーだったとの見方もあるだろう。本作は行程が短かったと言えど、点々としたロードムービーの形態を持って始まっていた。ただロンドンに着いてからは流れが変わり、救われた先のオアシスが実は泥沼フェイギンで、オリバー少年はそこから逃れてはまた嵌る。言うなれば、イベントカードをめくって一喜一憂するボードゲーム「天使と悪魔(仮題)」のような映画になってましたね。

こう考えると、オープニングとエンディングの絵本のような映像といい、悲劇と喜劇の巡り合わせといい、楽しい音楽といい、一つの娯楽作として馴染めませんでしょうか? そして、気になるフェイギン爺さんの少年達もゲームでの役目を終え、イベントカードに登場しなくなったというところではないでしょうか?

(評価:★4)

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