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[コメント] 潜水服は蝶の夢を見る(2007/仏=米)

どんな状態にあっても人間とはくだらない存在。そして同時にそれが素晴らしい存在。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作を観るに当たり、結構躊躇もしたのは確か。そもそも最近すっかり日本で流行の難病ものは嫌い。お涙ちょうだい的な演出は萎えるし、いかにも「君こそ全て」の恋愛劇に持っていくのも、凄く嫌。まあ、本作の場合は主人公が中年だし、実話が元ということ(それに折角これだけ賞を受けてるんだから、観ておかないと損かも?という打算)で拝見。

 ただはっきり言えば、かなり良い意味でそれは裏切られた。

 実際、突然しょうがいを持ったからと言って人間の精神が急に変わるわけではない。いやもちろん変わるところも多いが、相も変わらぬくだらなさを持ち続けている事も多い。この作品の面白いところは、その“変わったところ”よりも“変わらないところ”を中心にしているところ。動けない苛つきをなんとか表現しようとか、家族の大切さを再認識したところで愛人がやってきてしまい、その未練を断ち切れない自分を再発見するシーンなんか、しょうがいを持たない人間の修羅場のよう。

 しかしながら、そんな彼をそのまま周囲は受け止めていく。そして主人公も受け入れられていることを知っている。結果、その信頼関係こそが本作の本当に素晴らしいところだと思える。くだらなくも素晴らしい存在。それこそが人間なんだろう。

 本作を特徴付けるものとして左目のみの視点で物語の多くが展開しているという点が挙げられよう。主人公は瞬きをするし、時として焦点が定まらないため、対象がぼやけて見えにくい事もある。特に冒頭部分はこの視点だけで物語が始まるため、てっきりこのまま?と思わせるところも面白い。そして視点が制限されればされるほど、精神はどんどん自由になっていくのも面白い。動けない肉体の殻に閉じ込められても、人間は確かに自由になる部分がある。

 実験映像的な臭いがするが、映像の制限によって、逆にイマジネーションを広げる試みは確かに成功している。時々こういう作品を観るのも心地良いものだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)りかちゅ[*] Master[*]

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