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[コメント] ディア・ハンター(1978/米)

ウォーケン格好良いなあ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 私にとっても実は本作が初めてチミノ監督作品に触れた作品。高校時代に友人が絶賛しており、その友人が購入したという当時貴重なビデオ(当時だから一本2万近くしたんじゃないかな?)を貸してもらって観た。

 はっきり言ってつまらなかった。特に冒頭の冗長さは眠気を誘うし、物語もなんだかのんびりのんびりと進むばかり。主人公のデ・ニーロはある時は極端に行動的であるのに、ある時は怯えて何も出来ないでいるような役回りで行動に一貫性が無く、何を考えて何をしようとしてるのか分からない。ヴェトナム戦争の描写も爆発ばかりでやってることは民家の掃討作戦ばかり。盛り上がらないことおびただしい。ヴェトコンは、何で自分たちを撃つかもしれないのにロシアン・ルーレットなんぞ捕虜にやらせるのか?(事実それで撃たれてるし)。画面の綺麗さなど全く目に入らない時期だったし、アクション大作を期待していたのに完全に期待はずれだった。

 以降チミノ監督作品は私にとっては鬼門のようなもので、どうにも好きになれなくなってしまった。相性の悪い監督というのがいるとすれば、間違いなくその筆頭はこの監督だろう。

 だけど、折角貸してくれた知り合い、しかもこの作品が大ファンだという彼になんか感謝の言葉を言わねばならない…これはちょっと考えさせられる所だった。まさか「詰まらなかった」とは言えないし、だからといって嘘八百並べるのも気が引ける(怒らせたら他のビデオとか貸してくれなくなるだろうし)。

 だが、褒めるところが無いわけではない。確かに絶賛できる部分が本作にはあったのだ。

 他ならぬクリストファー=ウォーケンという俳優その人。デ・ニーロもストリープも関係ない。たとえどれほど出番が少なくてもあの目、あの表情だけは見た瞬間ぞくっと来るものを秘めていた。何と危うい。そして何と魅力的な顔なのだ。あれには惹かれた。はっきり言ってアクションスター以外で初めてファンになった男優こそがこのウォーケンだったのだが、そんな俳優に合わせてくれたと言うだけで本作は私にとっては充分な意味があった作品だとも言える…というか、それ以外に褒めるのは難しいんだよな。デ・ニーロでさえラストシーン以外はあんまり映えなかったし。

 でもウォーケンのお陰でその友人からはこの後も何本か貴重なビデオを貸してもらえたが(笑)

 チミノ監督自身はこの作品を反戦映画として作ったそうだが、そうは全然思えない所も痛い(事実アカデミーのライバル『帰郷』のジェーン=フォンダは本作が人種差別の映画というキャンペーンまで張っていたし、ヴェトナムの帰還兵さえこの作品には不快感を持ち、アカデミー賞会場は本作を非難する抗議運動で暴動寸前となり、帰還兵13人が逮捕されてしまう)。描写が中途半端すぎるのだ。

 それに色々言われるけど、やっぱりロシアン・ルーレットのシーンは無理があったとしか思えず(これはチミノ監督がベトコンが自分の頭を銃で吹き飛ばしている写真を見てアイディアを得たというが、それはつまり、事実的にそれは無かったという証拠にしかならず)。

 本作は色々な意味で映画史に残る作品だったのは確かで、予算を1500万ドルも超過し、更に3時間を超える上映にこだわったため、会社側チミノをは解雇しようとしたのだが、チミノはオリジナル・プリントを持ち出してしまい、会社も折れざるを得なくなる。更に3年後経営不振に陥ったUAは「夢よ再び!」で、『天国の門』(1981)をチミノ監督に任せた結果、とうとう潰れてしまった。そして製作側にとってもヴェトナム戦争物は鬼門となり、実質的にヴェトナム戦争が映画で語られるのは『プラトーン』(1986)を待たざるを得なかった。ある意味ハリウッドに停滞をもたらした事こそが本作の存在意義だったという…

 フォンダが本作をけなしきっていたのは前述したが、この年のアカデミー賞はとんでもなく荒れ、逮捕者まで出てしまった。この年の作品賞のプレゼンテーターはジョン=ウェインだったというのも皮肉。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)irodori カレルレン[*]

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