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[コメント] 地球へ2千万マイル(1957/米)

ハリーハウゼンによる新しい形の『キング・コング』と言っても良い作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 モンスターの形状と、宇宙からやってきた怪獣が暴れ回る。と言う先入観をもたれやすいので、単なるB級SF作品として片づけられがちなのだが、実際はこれは深い物語展開で、素晴らしい出来の作品。

 造形の良さは折り紙付きだが、クレイアニメーションによって動く(これをハリーハウゼン自身が「ダイナメーション」と名付けるのは翌年の『シンドバッド 7回目の航海』(1958)から)イーミアの姿は、姿の不気味さとは裏腹に、大変繊細な動きを見せている。最初にカプセルから誕生するシーンも、眠そうな目を開け、明るすぎると又目を閉じ、それから目をこすってからもう一度目を開ける…そんな細やかな動作をしっかりやってくれていたし、何より、このイーミアは、全編を通して、一度も自分から攻撃を仕掛けることはなかったというのが特徴的。イーミアが戦うのは人間の側が攻撃をした時、それを振り払うためだけで行われている。

 このシーンで特徴的なのは牧場のシーンだろう。トラックから逃げたイーミアはどこに逃げたらいいのか分からず、とりあえず広い場所の牧場に逃げていった。そこで草を噛んでいた羊たちはバラバラに逃げるのだが、一匹だけ逃げ遅れた羊がいた。そこに近づくイーミアの動作は傍目から観ても、大変優しげなのだ。しかし、それも番犬と農場主の銃によって追い払われることになるわけだが、不思議な魅力を感じさせられるシーンだったといえよう。

 そして一旦捕まってしまったものの、電気ショックに耐えられずに再び逃亡。この辺りから体の大きさは巨大となり、象と戦ったりするが、ここも実写とアニメーションの合成が小気味良い。流石ハリーハウゼン!と言いたいくらいに感動的だ。最後は廃墟となったコロッセウムの最も高いところに上ったイーミアに銃弾の雨が降りかかり、落下してついに死亡する。

 これを通して思うことは、この作品はハリーハウゼンの師匠であるオブライエンが手がけた『キング・コング』(1933)との共通性だ。

 訳も分からず自分のすみかから強引に引っ張ってこられ、右往左往してる内に人間が勝手に攻撃してくる。それを避けているだけなのに、世間はその存在を「悪」と見なし、攻撃する。全くの二元の都合で連れてこられ、人間の都合で攻撃されるというモンスターの存在意義というものがよく現れている(これは『フランケンシュタイン』(1931)でも使われた手法)。流石に師匠だけあって、相当にインスパイアされていたのだろう。最後の高所からの転落まで合わせてるし(笑)。これはハリーハウゼンが作り上げたSF版『キング・コング』と言っても良い。悲しく、そして素晴らしい物語だよ。  最後にイーミアをこの地球に持ってきたカルダー大佐が「いつの時代も進歩への道はとてつもなく険しい」とか言ってたが、「それってあなたの責任じゃないですか?」とツッコミを入れたくなるのはともかく(笑)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ina 茅ヶ崎まゆ子[*]

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