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[コメント] 海を飛ぶ夢(2004/スペイン)

今までのアメナーバル映画とは重みが違う。というのは、ファンタジックな描写が切実なまでの存在理由を伴っているから。自らの特質をこのような形で生かすことができたことに、まずは拍手を送りたい。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







とはいえ、もともとファンタジーを持ち込むことの意味に、ある程度意識的な監督だったとは思うけど。

互いが互いの言い分や感情をぶつけあっているにも関わらず、個人的にはそこから少し置いたところで、終始あれこれ考えを巡らせることができた。きっとそれは、ここに出てくる人たち全てが間違っていて正しいからだと思う。彼ら全てが、こんな考えの人たちがいて当然、と思える人たちでもあった。そして何より、どんなに屈折してようと、どんなに単純で素朴であろうと、彼らを分け隔てなくひっくるめて物語の中に取り込んでいることに、一番の温かさを感じた。

結局気持ちを曲げることもなく、主人公の死をもって物語は閉じられる。しかしここで肝となるのは、彼の手助けをしたのがフリアではなくロサだったこと、と思う。ロサは自らの加担したことの意味を充分理解できないまま、主人公の背中を押している。「私に分かるサインを送ってね」というセリフ、彼女はきっとある程度本気で言っていたのだろう。「きっと無に帰す」と告げられた後に彼女が唇ではなく、ためらっておでこにキスをするシーン、何よりそれが全てを物語っていると思う。

つまりはこの映画、結局何もハッキリした答えを出してはいないのだと思う。彼は最後まで一人で死んでいった。しかも、唯一理解者と思い、想いを寄せたフリアにも忘れ去られる念の入れよう。その死の傍らでは、今日も新たな命が祝福と共に生まれてくる。そんな慌しい世界では、ラモンが世に与えた波紋も次第に忘れ去られていくのかもしれない。しかし、忘れることは無くなることではなく、彼らの心の奥底に決して消えてなくなることなく、今も静かにその波紋は存在し続けるだろう。少なくとも自分の中には、確かに何かが残った。

「尊厳死」についてあれこれ考えながらも、結局(当然)何も自分なりの答えも出せないまま、映画が終わってしまった。その立場になってみないと分からないし、なっても分からないかもしれない。けど、分からないがゆえに、答えが出ないゆえに、きっと生き続けているのだろうなぁ、なんてボンヤリ考えてみたりもする。

追記:映画について言えば、手紙の遣り取りの扱いが面白かった。手紙のシーンが出てきても読み上げたり、ナレーションがなぞったり、というのを極力避けていたような気がする。

(2006/7/22)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus 緑雨[*] 水那岐[*]

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