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[コメント] ジェニーの肖像(1948/米)

ブニュエルのお気に入りの一本、というのをどこかで見掛けたことがある。常人が戸惑うような唐突な飛躍にも呼吸を乱すことなく、詩の韻律に身を委ねるような不思議な心地良さで綴られる。ポエジーがいきづくファンタジー。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少女に愛と命を吹き込まれる男と、そのしがない芸術家崩れの言葉にときめく初老の女性。という設定からして微妙な倒錯すら覚える。しかし物語はそんなことお構いナシに、様々な時や世代を自由に飛躍してみせる。どこか物悲しく、どこか気まぐれで、かすかにエキセントリック、しかし形容し難い美しさに満ちてもいる。

それにしても、ジェニファー・ジョーンズの唐突に現れては去る姿が、様々な変化で意表をつく韻律のようで、そのどれをとっても素晴らしい。しょっぱなのアンバランスな大きな帽子に釘付けになったかと思えば、冬枯れの風景の中の街灯の光に消える姿の印象深さ。スケートでの登場、アダムスの部屋での鏡の中の純白の姿、夜明けの光にぼやける姿、修道院での木漏れ日から現れる姿、砕ける波から走り出る姿(灯台のらせん階段という装置も秀逸)。ドビュッシーをモチーフにした音楽も、独特の趣。

その他にも消息を尋ねて訪れる映写室のシーンや窓外の雪や雨など、印象深い映像が多く、全体を通してコントラストの利いた白黒映像が効果を発揮している。小品の部類に入るのかもしれないけど、なかなか他では味わえない個性が際立つ一本。森羅万象の神秘に、時空を渡る鳥たち。美しさは謎で、謎はどこまでも美しい。

(2007/2/22)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ジェリー[*]

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