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[コメント] リリイ・シュシュのすべて(2001/日)

14歳のリアル
いくけん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







14歳。中二の時代。青春前期。異性と性に甘い幻想を抱く時代。自分の好みの異性のタイプも明瞭には認識えしない時代。言わば恋に恋する時代。後年、自分のこの時代を振り返ってみると、不思議な光が射しているみたいな、暖かな時代。未分化ゆえに暖かな時代。ドビュッシーの「アラベスク」に祝福されているような、たゆたう、奇跡の時間帯。移ろい行く夕方の光(昼間の時間帯の単調な光と比べて、何と繊細なものなんだろう。)を鮮やかに受け止める奇跡の人生の時間帯。苦い思い出もあるが、こんな印象を持っている。(少なくとも、俺の世代では。)

2001年、現在(この映画)の日本の14歳。状況はまるで違う。性と自分の将来に幻想は抱かない。知ってしまった者の無力感、悲しさ。だから、映画のドビュッシーは(わざと)高揚しない。夕方の光は(わざと)映えない。彼の得意技、未分化の時代の祝福(『打ち上げ花火、下からみるか?横からみるか?』、『四月物語』)を、岩井俊二は、2001年の14歳にしない。リアルを追求するために!そして、私はここに、岩井俊二の誠意を見た。自分の角(つの)を折っても、彼が、いいたいこと。「こんな14歳がリアル。そして、これが現実の日本。」(岩井俊二が遺作にしたいという意味も分かる。)無機質であると同時に、人間のリアルな赤いたぎりのようなものを現出させている、この作品を、高く評価したい。

フランス語とロシア語が混じったような大文字小文字が、日本語に変換される刹那(せつな)に、本来?の14歳がもつ誠実さや、期待感を感じた。(涙)

このあと、岩井俊二は何を撮るのだろうか。『UNDO』のような大人の恋愛劇を専門に撮るのか?あるいは、彼の得意技が違和感なく、縦横に揮えるような、暖かな時代が復古してくるまで、何十年も待つのか?(笑?)いや、彼は、十代の多感な人々に降り注ぐ光が好きだから、彼らをやはり撮るだろう。撮らずには、いられないだろう。リアルとの兼ね合いが難しいが、『リリィ・シュシュのすべて』を観て、岩井俊二の仕事を一生、追い続けようと思った。

(評価:★5)

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