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[コメント] シッコ(2007/米)

21世紀のトクヴィル
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







19世紀、フランス人アレクシス・ド・トクヴィルはアメリカを訪れ、当時のヨーロッパ社会に比べて進んだアメリカ社会の在り様に驚き、民主主義に関する優れた考察『アメリカの民主政治』を著す。

本作では、このトクヴィルによる「発見」が踏襲されている。「アメリカ人」マイケル・ムーアが、「21世紀の」西欧諸国やキューバを訪れ、不完全な社会保障制度のアメリカ社会に比べ、これらの国の進んだ社会保障制度を「発見」する。

もちろん、これら各国の社会保障制度も「永遠の楽園」を約束するものではなく、それぞれが構造的もしくは社会的要因による欠陥を抱えている。急速な少子高齢化社会に際し、年金や医療費削減など社会保障制度の行き詰まりを意識せざるをえない日本にいれば、ムーアの「見落とし」には否応なく気づかされる。

しかしながら、「自立」や「独立独歩」の価値観を好み「大きな政府」による救いの手に抵抗感をおぼえるアメリカ固有の歴史的心性に、本作は有効打を与えるものなのだろう。それこそが、あくまでアメリカ社会との比較の観点から語るムーアの限界であり、他方で「愛国者」マイケル・ムーアの特徴(「いいところ」)でもあるのだろう。下層社会の活力を奪い無気力にさせることで現在の体制が維持されていると断じ、これに対し民衆による「下からの」社会参加が本来のアメリカにおける民主主義のあり方であると希望を捨てないムーアの姿勢は、一種の文明批評を含んだ正当な指摘だと感じた。(★3.5)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ハム[*] 林田乃丞[*]

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