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[コメント] ニュー・シネマ・パラダイス(1988/仏=伊)

たった数日の話。(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大学時代に所属していたサークルの名簿に「好きな映画」の欄があって、サークル(ちなみに映研ではない)の大半の人は本作を挙げていた。そのサークルの友人たちは一人一人話すと、とても気のいい人ばかりであったことは確かだったが、それが一つの「かたまり」になって何かにみんなで盛り上がっているとき(『海の上のピアニスト』公開時の熱気もかなりのものだった)、何か近づきがたいものを感じていた。そんなサークル内「落ちこぼれ」の私には、観る前から本作には嫌な予感があった。だから、いくら薦められても、「ああ、いつか観ようとは思ってるんだけどね。」と流していた。二十台も折り返しを過ぎた今、とうとうその「いつか」を実現させた。

前半の、喜劇役者のような大仰なリアクションをぶる、子どもと映写技師の交流を観て、嫌な予感が現実のものに変わろうとしていた。というのも、そのサークルの大半が盛り上がるものといったら、たいてい押し付けがましく絡みついてくるベトベトでコテコテのものばかりだったから。

また前半で意外と眼に焼き付くのが、映画を要求する「群衆」の姿。彼らは本当に村人だったのだろうか。むしろ、「俺の広場にどしどし押しかけてくるんじゃねえ。」の浮浪者や「人ん家の壁使って、勝手に映画流してんじゃねえ。」な住人のほうが、よっぽど村人っぽいなあと思っていた(そんな浮浪者を登場させたのは本作の持ち味の一つではあるが)。いや、いかん、必要以上に偏見を持つな、偏見を持つな、と『ストーリーテリング』の主人公のように「いびつ」な唱和を繰り返す私がいた。

ところが、最後まで観てみると、それほどしつこくまとわりつくような作品ではなかった。特に後半部分は印象に残るセリフが多く、他の方のレビューを読んで、完全版のほうも観てみようという気になった。

初公開版の後半でひっかかっていたことが、完全版を観ることで解きほぐされたような思いがした。本作の少年期や青年期は、年を重ねた主人公の回想、主人公が今まで捨ててきた過去であったことがわかった。前半部は、客観的なものではなく、あくまで主人公の主観のフィルターを通して見えたものというニュアンスなのだろう(老いた母との会話で、若かりし頃の母を「再発見」したと述べる主人公の姿もそのあたりを示唆している)。そう読むなら、たった数日の帰郷における、いくつかのエピソードのほうが本作の骨子になりうるのだろう。

過去にはまぼろししかないと言う母や、過去はもう終わったことと言うかつての恋人に対して、そうとは思わないと言う主人公。過去との接し方は、ただ浸るだけのノスタルジーか、はたまた振り返らずに現在と未来を見据えていくだけかの二者択一ではないのだろう。過去を見つめる今の自分の立ち位置を理解してさえいれば、過去に新たな意味を見出すことはできる(そこに歴史を学ぶ意義の一つがあるかと個人的には思う)。意識的に映画に携わっている者だからこそ持ちうる視点ということで、主人公の現在の職業には意味があると感じた。

だからこそ、あの有名なラストシーンは、それを残したアルフレードの意志よりも、それを今の立ち位置から観る主人公の視点が気になった。人知れずうち捨てられてきた過去を拾いあげ、それが過去にあった在り様とは異なる文脈や意味をもたせて、現在や未来に解き放つのが、映画(や文学や美術)の存在意義の一つではないだろうか。ノスタルジーに浸るだけでもそれはそれでいいとは思うが、その前のセリフや様子からして主人公は、そのフィルムの中で多くの「再発見」(おそらく一つ一つのシーンは成長後、それぞれの映画のなかで観ていただろうから)をおこなっていたと思う。惜しむらくは、それで話のつじつまが合うとはいえ、それがすべてキスシーンもしくは欲情をかきたてるシーンであったこと。例えば、日常の中で人がただ佇むシーンや、疲れ果てて眠っているシーン、そんなささやかだけどかけがえのない映画の中のふとした瞬間がそのなかに眠っていたら、私も「映画愛」なるものに目覚めたのかもしれない(←そういうものがあるのかどうか今はまだわからない)。

今度、サークルの友人達に会う機会があったら、(勝手な偏見を抱いていたことを恥じる気持ちをそっと忍び込ませながら)是非この映画について話し合ってみたい。「せっかく大事に閉まっていた思い出を掘り返して、さも知ったかのような御託をうだうだ並べてんじゃねえ。」と怒られてしまうかもしれないが。(一回目鑑賞:初公開版 二回目鑑賞:完全版)

(評価:★3)

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