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[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)

答えのない殺人事件を題材にしたことで、安易に犯人探しに固執することなく、思う存分に刑事たちの揺れ動く葛藤を描くことに成功した。中盤以降、緊迫感が心を離さない、重厚な人間ドラマとして評価したい。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 序盤の印象では、どうも『羊たちの沈黙』と似たような雰囲気を醸し出す映画だと感じた。そのせいで不安が過ぎる。近年、躍進目覚しい韓国映画だが、ヒットを飛ばす大作の中にはハリウッド映画で行なわれたことを繰り返しているだけのような映画も見受けられるため、この映画もその類のものか、という不安が過ぎったのだ。

 だが、全然違った。

 映画は物語が進むに従って、勢いを上げて求心力を発揮する。どこにその力があるかというと、それは紛れもなく、事件解決のための葛藤を繰り返す刑事たちの姿にある。拷問尋問により強制的に犯人を作り上げようとする悪徳な方法。それに対する警察内での賛否を刑事それぞれの描写を通して描きつつ、しかしそれでもそういった手段を強行してしまう感情の揺れを観客にも理解させるまで見事に描いている。終盤、今まで冷静沈着だったソ刑事が容疑者に対して激しい怒りが募り銃を向ける様子。この変貌を理解できてしまうし、それが人間が誰もが持ちうる本質的な感情であるのかもしれない。

 言ってしまうと、現代に舞台を移したパク刑事のエピローグの有無は映画自体には直接関係はしない(確かに、ラストカットでのソン・ガンホの表情が物語る部分は大きいが)。どちらにしろ、この事実に基づく殺人事件に答えがないことには変わりはない。トンネルの中で暗闇に入り、そのままエンドロールが流れてきても、伝わるメッセージに変化はなく、物語として結論がすでに出ている。仮にエピローグがなくても、刑事たちの葛藤を描く重厚な人間ドラマは十分に優れているのだ。そこにこの映画に引き込まれる理由がある。新鋭ポン・ジュノは、犯人探しによるカタルシスを端から放棄して、安易なサスペンスに終わることなく、人間の心の葛藤を描くことで、緊迫感溢れるドラマを生み出した。

 願わくば『インファナル・アフェア』にもここまで突っ込んだ人間描写がほしかった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)イライザー7[*]

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