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[コメント] 隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS(2008/日)

世間様には、底抜け監督が撮ったアイドル映画なんでしょうが…
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







特技監督・樋口真嗣が『ローレライ』で本編監督をやると聞いたとき、多くの樋口ファンはやめた方がいいのでは…と思ったはずだ。なぜなら往年の円谷特撮を映画として成立させていたのは本多猪四郎だったことを、我々は知っているからだ。しかし、樋口監督がアニメとの混血児たる特撮の虎の子である以上は、勝負をしかける以上は、これはもう懸念など押し殺して、一緒に世間に殴り込みだ〜! …と思う以外になかったわけだが、結果としては底抜け監督の烙印がバチンと押され、皆様には日本特撮の威力など一切伝わらず、まして俺ごときの煩悶なんて……うがー!

二つ問題があって、まず前提としての問題は俺自身の問題で、俺は樋口作品が底抜けであることそのものよりも、特撮の虎の子がこの体たらくであることが許せないのだ。何でもっと世間がぐうの音も出ないぐらい緻密に作れないのか、その上で、世間をあっと言わせるような新しいものを見せられないのか、その上で、我々がニマニマできるような往年からの伝統を、世間の口をかっぽじ開けてぶち込んでねじ込んでやれないのか?! それが出来るなら別に樋口じゃなくたっていい!(ええっ…?!)

樋口真嗣という作家が標榜しているのは、ルーカス以降のハリウッド超大作であって、往年の日本特撮ではないのかもしれない。考えてみたら、この人が(影響を受けた映画として)真っ先に挙げるオリジナルの『日本沈没』だって、邦画特撮の中ではむしろ徒花で、その後のハリウッド・パニック映画に通じている面が大きい。そうなんだよ、良くも悪くも、この人、むやみに昭和に囚われた偏執ヲタとは違う。

それならそれで時代の先を行ってくれてればいいのに、この人はこの人で、人間ドラマの感性が、あれら80・90年代超大作の幸福でおめでたいアレのままで止まってしまっているのが最大の痛恨で、これが俺をも大変苦しめる。オールド・スタイルだと言って、夢だと言って擁護するには、あまりに時代錯誤な感じが…。だって今や当のアメリカ映画が『ミスト』みたいなニヒルなのを作っちゃう時代なんだし……。

この『THE LAST PRINCESS』(…このサブタイトル…)は、そこまで駄目な映画というわけではない。ところどころ、あちゃぁ…と思わせながらも、まあ、最後まで最低限のテンションは保つ。リメイクの方向性としては、トレース志向より良いと思うし、オリジナルに挑戦する気概も多少は見えた。

ジャニーズの起用に関しては、前回、草なぎくんが韓国乗り込んで宣伝隊長勤めてたのを見て「ああ、この人たちって本当にプロフェショナルなんだな」と思った次第で、その上で、今回の松本潤氏はちょっと荒れ身でかっこいいんだけれども、でも、それは何かこの人たち特有のインスタントな「カッコいい」に見えた。すぐに付け髭を取って明日は『花より男子』を着てそうな気がした。「その世界」に住んでいるようには見えなかった。

そう……その世界といえば、樋口演出も「その世界=確かな空想世界」をあんまり感じさせてくれない。円谷英二がフレームに収まらないところまでミニチュアを作ってしまうとか、宮崎駿が腐海がどうなっているのかをもんどりうちながら考えるとか、そういう端から見ればきちがいじみた試行錯誤の痕跡が、樋口監督作品には見えない。『ガメラ』には『ガメラ』には『ガメラ』にはあったのに……!

ついでに、長澤まさみ姫にも過剰な期待を抱いては、やっぱりそんな珠じゃないのか?と戸惑う今日この頃だ。正直、こんな良い女はどこ見渡してもいないと思うんだが、演技を見るたんびにがっかりする。声が駄目だ。今回は、発声がまずいわけではなさそうだという場面(命に何の違いがあろう!……のくだり)があって、おっと思った。それからオリジナルで六郎太が馬で敵を追っかけるくだり、今回、まずまさみ姫が追っかけたのには、おっ?と思った。合成はしょぼかったけど良いアイデアだ。この時、手を下せなかったことが最後の“突き”に繋がるんだが、しかし、これを演出がぜんぜん活かせてなかったのにはがっかりだ。俺だったら、むしろここから話を考える。まさみ史上初の人斬り!手を下すことへの葛藤から手を下してしまう瞬間の痛恨までガッチリやる。そうなると、特撮チャンバラとか、黒澤演出の考証とか、きっとどうでも良くなってると思ふ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペペロンチーノ[*] すやすや[*]

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