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[コメント] キック・アス(2010/英=米)

母親不在の物語。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 主人公の母は動脈瘤で早々に死んでいる。ミンディの母はミンディが生まれる前からもう死んでいる。ヤクザのボンボンのママも、ヤクザにもほどがある夫のかたわらで、生きながらにおまえはもう死んでいる。そして子供たちは、等しく父親とだけの息苦しすぎる青春を送っている。あるいは父を回避して密やかにウエットスーツをかぶり、あるいは父の思考をそのまま受け継いで殺人マシーンと化し、あるいは父に認められたいばかりに道を踏み外す。

 ところで、ダディ・kionaの頭の中は、ずばり言ってビッグ・ダディと大差ない。彼は、腐れドチンポ野郎どもの御魂など蛆虫のごとくに踏み潰して差し支えないと考えているし、ヒーローなどもう信じていなくて、この世にいるのは悪党とその反対だけだと考えているし、ともすればそれを娘に教えかねない。娘が年頃になったなら、あるいはこの映画のニコラス・ケイジのように、あるいは別の映画のニコラス・ケイジが化けたジョン・トラボルタのようにバタフライをプレゼントして、おまえを犯そうする奴がいたら容赦するな、ためらうな、と教えかねない。彼の現実感は、そうなってしまっている。

 彼はもう、キリスト教徒が聖書を愛するように、『ハムレット』と『北斗の拳』を愛する取り返しがつかない気違いなので、この映画も大変、大変、大変に気持ちがよく、それでけっこうなのだけれども、彼の娘にはちゃんと母親がいて本当に良かった。

(評価:★4)

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