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[コメント] ニューオーリンズ・トライアル(2003/米)

グリシャムが原作なので酷いものを想像していたら、意外や意外、悪くない。おそらくなのだが、ホフマン演じる弁護士の造形の改変や、訴訟問題をタバコ問題から銃問題への変更といった原作からの変更が、原作以上にヒューマニズムやリベラルの要素を加味することになり、良作になったのだろう。
Kavalier

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







その前にグリシャムである。というわけで、グリシャムへの賛辞として一般的なものを以下に書き出してみる。

1.感動的

2.驚くべき展開

3.ストーリーが読めない

4.社会問題を扱っている

言い換えよう。

1は法廷での論争が無視されメロドラマが進行し異常に感傷的であること*1。

2は複線もなく唐突な新事実なり衝撃の発見が作品後半に登場すること。

3は2と少し被るのだが、ストーリーテリングの下手さであり、知的な職業の登場人物までもがほぼ全員が知的とはほど遠い行動を取ること。

4はある人物、あるいは何がしかの事象がイコールで社会問題と結ばれており、ドラマに組み込まれていない。

本作は以上のグリシャムの特徴を全て兼ね備えた作品だった。後はいつものごとくの無意味なアクションシーンまである。

というわけで、リーガルサスペンスとして見れば本作は突っ込みどころだらけだ。あまり書きたくないのだが、少し列挙してみる。

陪審コンサルタントという題材だけ焦点が当てられて、実際の法廷論争が完全に副次的な物に落ちてしまっている。結果的に裁判での原告と被告間でのパワーゲームといったものがまったく存在しない。そういった法廷での論争が満足に描かれないことは、ホフマン演じる弁護士が有能な弁護士として物語上でなんら機能しないという欠点にも繋がってくる。逆に、膨大な費用を持っている銃会社側は、なぜ弁護団を結成していないんだろうという疑問もある。

この裁判シーンは撮影も酷くて、複数台カメラで撮影して後に適当に編集で繋いだんだろう、みたいな感じ。

その陪審制度を扱った題材にも穴だらけだ。陪審は、裁判が開かれる場所によって大きく左右される。本作はニューオリンズという土地柄がまったくストーリーに反映されていない。原作はミシシッピ州が舞台なので当然か…。というわけで別にLAでも同じストーリーで映画が作れただろう。裁判が行われるその土地の人種の構成、政治性なり宗教等々が陪審員の構成に反映されねばならない。しかも両陣営のコンサルタントともそういった問題にはまったく無頓着だ。

あと一番駄目だったのが、冒頭の陪審員を選別するシーン。陪審員候補に対して質問を投げかける権利は原告・被告双方共に保持しているはずなのに、判事しか質疑を行わない。専属的忌避権の使用がよく分からない。ハックマンがこの陪審員の選別を操作しているプロットを重要視することからこんな変なシーンが出来上がったのだろう。

そしてそもそも陪審員の人間的側面がほとんど描かれないので、操作の過程がまったくおもしろくない。というか実際はそんなに簡単操作できないよ、と、これは野暮だな。

以上で、原作は相当に出来の悪かった法廷物だったと推測されるのだが、映画は決して悪くない。法廷物であることを半ば放棄しているかに見える内容に加味して、上でも書いたのだが、ホフマン演じる弁護士がリベラルの善意の弁護士として変更されていることで、原作のメロドラマなりヒューマニズムの要素が増幅されて、社会啓発*3のメロドラマとして一定の完成度にあるんだろう。ラストは不覚にも感動してしまった。ああ、恥ずかしい。

あとは、ジーン・ハックマンの存在感なんだろうな。彼が率いるコンサルタント集団の行動は非常に杜撰で、もし活字で読んでいれば到底百戦錬磨の集団には見えないのだろうが、ハックマンの存在感だけで何やらすごい集団に見えてくる。うーむ。

(評価:★3)

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