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[コメント] 音楽(2019/日)

シンプルな線の絵。決して瞬きをしない目。これらはすぐに慣れる。舞台は海が近い町。堤防の上を歩く「マカロニ拳法」の使い手、筑校の研二。
ゑぎ

 中盤には、堤防の横の道での、研二と亜矢の場面もある。亜矢のお尻を触って、殴られて、寝ながら煙草を喫うロングショット。研二が、街を歩くのを横移動で見せるショットでは、交差する道が画面奥へ伸びていて、縦への志向も感じさせる。

 学校では、立入禁止のプレートのある教室にいる。仲間は太田と朝倉。ライバルと云っていいかどうか分からないが、丸竹工業(高校)の大場のところへ殴り込みに出発するが、道が分からず、ボクシングジムへ。てっきりボクシングをやり始めるのかと思ったが、スルーする。続いて泥棒を捕まえようとしている男性(バンドマン)が、ベースのケースを研二に渡す場面があり、これが音楽の始まりになる、というフェイント。

 しかし、初めて音を出したシーンの衝撃の描写はいい。本作は、あらゆる撮影技巧(それは実写的な)が使われているという感覚を持つ。ハンディカメラのような、シェイキーな画面もあるが、落ち着いた横移動と、人物の正面ショットからのポン寄りも目立つ。クライマックスのフェスの場面では、どうも、実写で撮った映像を元にしているらしく、とても面白い効果が出ていると思う。こゝでは、手ブレに加えて、素早いパンとか、小さなズームが取り入れられ、臨場感を創出する効果が出ている。半面、うるささもあり、鬱陶しさもある。

 結局、研二には、類稀なる才能があったということなのだ。身体能力も、音楽センスもだ。しかし、ルックスや醸し出すムードは不良だが、一回も暴力を振るうシーンが無い、というのは、意識的な演出なんだろう。代わりにと云っては何だが、最初に書いたように、セクハラ・シーンが一回あり、これは雑音になっていると思う。ただし、研二のあらゆる理屈から遠いキャラ造型は映画らしさだというのが私の感覚だ。対して「古美術」の森田の描き方は理屈にまみれていると感じる(ちょっと大げさだけど)。これでバランスが取れているのだろう。森田を好む観客が多いのも分かる。

 尚、フェスのシーンの後に、エピローグがある。これによって、ほのぼのとして終わるが、私はこのエピローグは無くても良かったと思った。フェスのシーンで終わった方が、カッコいいというのが私の感覚。研二というキャラの、理屈と無縁のカッコ良さが減じられたように感じた。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] けにろん[*]

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