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[コメント] セノーテ(2019/日=メキシコ)

ちょっと他にない体験という意味で傑出した作品だ。しかし紛れもない映画だと感じる。セノーテについては、NHKのドキュメンタリー番組で見たこともあったが、本作の撮り方は全く違う。
ゑぎ

 セノーテ自体の外観はほゞ映らない。ほとんど水の中だが、見ているうちに、水の中か外か、分からなくなる。オーロラのような光。これが案外綺麗じゃないのだ。混濁。荒々しさがある。しかし、時おりナマズのような魚や鯉のような魚が通り過ぎたり、気泡と木端や葉っぱなどの小さな浮遊物の画面や、水面を無数の雫(しずく)が跳ねまわるカットが、とても気持ち良いのだ。

 セノーテの水中撮影にカッティングされる現地の風景も非常に面白い。花火、闘牛、豚の解体、墓と人骨(髑髏等)、そして現地の人々の顔アップ。特筆すべきは、この顔アップの画角の統一だ。顎の上から額の生え際の上迄の(顎の下と頭頂はカットされている)アップばかりなのだ。一番顔が美しいアップだという確信があるのだろう。

 また、ナレーションが、何ら画面を説明するものでない、という措置もいい。セノーテにまつわるエピソードや詩が吹き込まれ、日本語と英語の字幕の両方を追いかけるのが楽しかった。テキストは、途中から少女二人で読まれているようで、微妙なユニゾンがスリリングなのだ。さらに、冒頭から動物の鳴き声のような、船の櫓のきしむ音のようなノイズが入ったり、水中撮影中の同録音源の使い方含めて、非常に音響設計も面白く出来ている。

 そして、ラストカットは、詳述は避けるが、まるで奇蹟のようなカットなのだ。矢張り神懸った映画と云うべきだろう。小田香は映画に命をかけている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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