コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 老後の資金がありません!(2020/日)

プリプロダクションの設計段階で、その面白さがほとんど充足してしまった作品という印象を受ける。つまり映画らしさが希薄だ。とりあえず、私は草笛光子を目当てで見たので、その意味においては大満足した。ちょっとこれ以上は考えられない良い役だろう。
ゑぎ

 冒頭、ショーウィンドウのハンドバッグのカットで、値札が見え、値段も視認できるにも関わらず、次のカットで値札のアップを繋ぐ。この時点で既に、以降の説明的演出の連続するさまが予見できてしまい、ちょっとガックリ来た。予想に違わず、説明過多の嫌らしいカットが多いのだが、ただし、逆に丁寧さがハッとさせる部分もある。例えば、主人公の天海祐希の義父(夫の松重豊の父親)である綾田俊樹の最後の言葉「ぼた餅3つ」の後に、義母−草笛光子の、ちょっと驚いたリアクションカットを挿入する部分など。このリアクションカットがあることで、「ぼた餅3つ」が謎として強化されるのだ。

 一番楽しい場面は、天海と草笛が一緒に通うヨガ教室の友人−柴田理恵から頼まれて、年金詐欺の片棒を担ぐ場面であることは、衆目の一致するところだろう。松竹歌劇団出身の草笛と、宝塚歌劇団出身の天海の楽屋オチには笑わせられたのだが、それ以上に、インカム(無線機)を活用して、障子越しの二人を丁寧なカット割りで見せる部分が楽しかった。また、こゝだけに登場する区役所の年金調査員−三谷幸喜が良い仕事をするのだ(ちょっと臭いが)。このシーケンス終結部の、スローモーション演出になると、矢張り、やり過ぎと感じてしまうのだが。

 さて、草笛光子についての賛辞をもう少し書いておきたい。本作では80歳という役だが、実年齢では88歳なのだ。彼女の類稀なる若々しさが、この作品の基盤(「人生わがまゝに生きた方が勝ち」という言葉の拠りどころ)になっているのは間違いないだろう。同世代の映画女優で、全盛時には彼女以上の美しさと人気を誇った人たちが何人もいるが、80代になる迄、これほど気品のある美しさを保った人は、空前絶後じゃないか(若くして引退した人のことは分からないが)。本作エンディング近くのスピーチの声も美しい。そして「ラストダンスは私に」の歌唱!

 あと、松重のマイペースでノンビリした感じの一貫性と、いつも微笑んでいる顔もいい。また、松重の妹役、若村麻由美もやっぱり上手い。この人、最近ノリノリになって来た。チョイ役では、ハローワークの窓口役の富田望生がワンシーンだけだが、しっかり印象に残るキャラ造型だ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ダリア[*] シーチキン[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。