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[コメント] ブルー・バイユー(2020/米)

タイトル曲は、私にはリンダ・ロンシュタットの持ち歌、という意識が強くある(本家はロイ・オービソンだし、ノラ・ジョーンズのカバーもいい)。映画だと、トニー・スコットの『マイ・ボディガード』の中で、印象的に使われていたことを思い出す。
ゑぎ

 本作では、ベトナム難民の父娘がホストのガーデンパーティで、アリシア・ヴィカンダーによって唄われる。これが、ほゞロンシュタット・バージョンの完コピという感じなのだが、サビでプロっぽく唄い上げるのには違和感を持った。もっと下手に唄った方が良かったと思う。

 さて、この映画、ピンクの花に囲まれた入り江のカットから始まる。青ではない、というところに意外性があるが、入り江というロケーションは、主人公アントニオ−ジャスティン・チョンの隠れ家的な場所や、母親のイメージ(韓国の川)を含めて何度も出て来る。なので「入り江の映画」ということができる。

 一方、冒頭の入り江の部分から、水中で手をつかまれる、手を繋ぐ、というカットがあるように、本作は、手を繋ぐことを描いた映画でもある。主人公アントニオと妻のキャシー−アリシア・ヴィカンダーにも印象的な手を繋ぐシーンがあるが、決定的なのは、終盤での娘ジェシーの手を固く繋ぐ演出だろう。本作は、この娘ジェシー役のシドニー・コワルスキを発見できたことが、成功要因として一番大きいんじゃないかと私は思う。可愛いし、上手いのだ。特に序盤の活躍はたいへん好ましく、中盤からあまり目立たなくなり、終盤も目立たないまゝ終わるのかと危惧していたら、過剰な見せ場が与えられている。この展開は計算だろう。実に上手いのだ(過剰な見せ場の直前に、一歩後ずさる所作を挿入するのが、憎い演出だと思う)。

 また、他にも映像表現のテクニカルな面で、面白いシーン、良く出来ている部分が多々あって、並々ならぬ演出力だと思った。例えば、バイク強盗シーンのスピード感だとか、その直後の倉庫の場面の幻想的な表現なんか、ウォン・カーウァイみたい、と思いながら見た。あるいは、母親のイメージのフラッシュバックは、だんだんと鬱陶しく(もっと少なくていいと)感じて来るが、しかし、バイクで入り江に突っ込むシーンの後の過剰な(母親の)イメージ処理には心打たれた。鬱陶しく感じたことが帳消しになるのだ。

 あと、ベトナム難民のお父さんの造型がいい。こういうキャラクターをきちんと織り込んで来るので映画が豊かになる。逆に、キャシーの先夫(ジェシーの実の父親)エースの相棒デニーの扱いは、類型的に過ぎると思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)プロキオン14[*]

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