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[コメント] アンビュランス(2022/米)

傑作。こゝ数年のスパンでも、有数のアクション映画じゃなかろうか。傑作という言葉では控え目過ぎる、と感じられる方もいるかも知れない。私の感覚で云うと、もう少し落ち着いたカメラワークが選択されていたならば、『ダイ・ハード』級の大傑作と思われる作品だ。
ゑぎ

 まず、主人公は銀行強盗犯のジェイク・ギレンホール(ダニー)とヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世(ウィル)であることは確かだが、人質になる救命士のエイサ・ゴンサレス(キャム)が真の主人公と云ってもよい役柄だ、という点、そう思わせるプロット構成がいい。私は『パーフェクト・ケア』(2020)の感想で「そろそろゴンザレスには主役を張って欲しい」と書いているのだが、こんなに早く、こんな良い役の彼女を見ることができるとは!とても嬉しい。

 そして勿論、本作の面白さは怒涛のアクションシーンにあるワケだが、私の感覚でこれが凄いと感じられるのは、どんどんムチャクチャな展開になっていく、その図太さだ。何度も何度も主人公たち(上の3人)の思惑が裏切られるツイスト感。さらに、本作は予想以上の群像劇で、ゴンザレスと共に人質になる瀕死の警官、その相棒、愛犬を連れて現場に到着するキャプテン(警部)、指令車の担当婦警(ザガ)、FBI捜査官、あるいは、ギレンホールが頼るギャングのパピなどなど。他にも上げることができるが、皆、印象的な登場シーンが用意されているし、ひねりの効いた展開に巻き込まれる、印象に残る役なのだ。さらに、皆、どんな時でも軽口や気の効いた会話のやりとりをする、という点も、あゝアメリカ映画のカッコ良さだなぁと感じさせるのだ。

 さて、「もう少し落ち着いたカメラワークが選択されていたら」と上に書いたが、特に、序盤の銀行襲撃シーンとそこからの逃走シーンのあたりが顕著な部分だと思う。襲撃シーンは、行員を人質に取る場面を完全に割愛するのは良いのだが、警官が行内に入ってくるところから、犯人たちの脱出の銃撃戦を無茶苦茶なカット割りで見せる。これって迫力はあるかも知れないが、人物の距離やアクション自体を見せる気が、まるで無いかのような演出だと思うのだ。銀行の外観をドローンを使って、ジェットコースター的カメラワークで見せるカットも、ある意味独創的だが、こけおどしのようにも感じられる。

 ただし、中盤以降のカーチェイスにおける、ドローン利用については、ジャンプする車体の下を飛ばしたり、車体にぶつかる寸前に上昇させたり、多分、車体にぶつけて破壊してしまったドローンもあると思う(録画した映像は、クラウドにもあるので、ぶつかるところまで使われてるのだろう)。こゝまでドローンを使い倒した映像は、やっぱり圧巻の迫力だと思った。あるいは、終盤になって用いられる超スローの銃撃カットもカッコいい。ちなみに、このような落ち着きのないカメラワークだが「下品なズームイン/アウト」は一切ない。

 そして、キャム−ゴンザレスに寄り添うエピローグ的な挿話も、序盤に提示された前提が覆されるという、もしかしたら劇中で一番効果的なツイストかも知れない。このエンディングの爽やかさも本作が傑作だと感じる大事なポイントになっているだろう。尚、一部の犯罪行為が看過されて終わるのは気になるが、映画における倫理観は、これでいいと私は思う。

#備忘。犬の名前、ニトロ。あと、『ブレイブハート』のギブソンと『ザ・ロック』のコネリーへの言及がある。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)プロキオン14[*] 袋のうさぎ

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