コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] すずめの戸締まり(2022/日)

お返しします、行ってきます、おかえり。冒頭の曙の風景、紫だちたる雲の細くたなびきたる様子には矢張り感動するのだが、しかし、自然描写や都市の細部の再現性は、本作でも以前に比べてクォリティが劣化したように感じた。
ゑぎ

 それは、私が慣れてしまった所為、私の感覚が鈍化して、より強い刺激でないと満足できなくなってしまった所為かも知れないが。また、画力という点では、愛媛の民宿のシーンでの焼き魚(サワラ?)や、神戸のスナックでの焼うどん等の食べ物については、とても雑な絵に感じた。

 しかし、アバンタイトル内で有無を言わさず圧倒的なスペクタクル−産土(うぶすな)−ミミズを登場させ、瞠目させる構成はやっぱりいいと思う。いきなり映画が走りだす。あるいは、目を引く道具立ての使い方も多彩で楽しい。坂の途中の家。海を望む坂。扉やドア、その鍵(鍵は自転車後輪用の鍵も)、三本脚の子供用椅子、緊急地震警報、廃墟の反復(温泉街、廃校、山上遊園地)、御茶ノ水駅近くの中央線、総武線と交差する丸の内線のトンネル、HARUTAの黒のローファー(序盤では部屋に靴箱が見える)、電動格納ルーフが壊れている赤いオープンカーなどなど。

 プロット及びキャラ造型の点でいうと、主要キャラ以外では、ソウタの祖父のピンポイント投入がたいへん効果的だったと思う。担当した松本白鸚、さすがに迫力があった。ただし、全編のクライマックスが恋愛感情に帰する作劇には私は今回は付いて行けない感覚を持った。これに納得性を持たせるには、出会いにおける一目惚れ、あるいは、恋慕の自覚の契機をもっと明確にして欲しかったと私は思う。恋愛感情よりも、お母さんの形見の椅子奪還モチベーションの方が良くないか、と思いながら見た。あと、インターネット上では、諏訪敦彦風の電話』との相似について、既に指摘されているが、私は、プロット展開以上に、主人公と、遭遇する人物たちとの抱擁、ハグの部分が、影響を受けていると思った。しかし、このハグの繰り返しは本作の美点だろう。現実的ではないという点で、映画的だ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 緑雨[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。