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[コメント] エンパイア・オブ・ライト(2022/英=米)

奇をてらわない素直な構図やカメラワークがこの題材にとてもマッチしている。まずは、冒頭シーン、エンパイアという名前の映画館の館内で、オリヴィア・コールマンが照明を灯していくシーンのオレンジ色の光。なんて美しい光の設計だろう。
ゑぎ

 いやもちろん、それはロジャー・ディーキンスの照明の力なのだろうが、完成した作品のクォリティの責任者は監督だというのが私の認識だ。映画館の外観ショットもいい。道路を挟んで浜辺と海。マーゲイトという港町。冒頭は1980年の暮れで、ヒラリー−コールマンはお客さんにメリークリスマスと挨拶する。主要人物は、ほゞ映画館の従業員。特に新人のスティーブン−マイケル・ウォードとコールマンとの関係が描かれる。映画館には立ち入り禁止の階段があり、その上階は締め切られたフロア。かつてはもっと(あと2つ)スクリーンがあったという、映画産業のはかなさが盛り込まれる。しかし作劇的には、この上階のフロアは、ヒラリーとスティーブンだけが入ることができる場所であり、飛べなくなった鳩の治療含めて、象徴的な使われ方をする特別な場所なのだ。また、大晦日の夜の、屋上から二人でカウントダウン後の花火を見るシーンは、全編でも一番の綺麗な画面だろう。『スカイフォール』のゴージャスな画面を思い出させる。思わずスティーブンにキスするヒラリー。

 その他の俳優では、エンパイアの支配人−コリン・ファースと映写技師のトビー・ジョーンズが重要だと思う。ファースはちょっとした悪役として相変わらずの存在感を示すが、人物の描き方としてはありきたりか。彼がもっと、とっちめられるとコメディになってしまうので、この程度の描写にとどめていると考えると納得はできる。あと、本作は、映写技師のジョーンズを介してのみ映画自体に接近するが、引用される70年〜80年代映画の数々は微妙な作品が多く、ちょっと寂しいと同時に、微妙な作品に光をあててくれたことは嬉しく思う。『チャンス』をチョイスするとは。

 また、悪役という意味では、黒人排斥を唱える暴徒たちがもっとも相応しく、指摘すべきだろうが、私は、暴動の前に、沢山のバイクやスクーターが映画館の前の道を通り過ぎる状況を見せておいて、コールマンたちが半ば感激するかのように瞠目するショットを挿入している部分が大事だと思う。唐突な恐怖の発現。あるいは、窓の内外の異空間の描写。ただし、暴徒自体のステレオタイプな描き方(彼らの事情を深く見せないこと)は、少し気になってしまうのだが。

 あと、もう一つ肝心だと思うことは、映画が人に与える力というものを描いている部分だが、これについては、どこまで描こうとしているのか、よく分からないというか、どうにも中途半端に感じられる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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