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[コメント] カラオケ行こ!(2023/日)

男の背中から始まり、男の背中で終わる映画。「終わる」の方は、実はエンドロール後のオマケ。ついでに云っておくと、エンドロール中の音楽もいい。
ゑぎ

 「始まり」は黒画面に水の音。溶明すると、雨の中、歩く男の背中のショットだ。シャツが濡れて、下の肌が透けて見えている。私は『静かなる男』を思い出した。ちょっと極論すると、本作の主人公も『静かなる男』のモチーフと云っていいかも知れない。

 一方の主人公は中学3年生、合唱部部長の聡実−齋藤潤。副部長の中川−八木美樹と後輩(2年生)の和田−後聖人もよく目立つキャラだ。顧問の先生は芳根京子で、合唱コンクールに優勝できなかった理由を和田くんから詰問され、足りないのは愛、という曖昧な回答をする。この曖昧さは、私はキモチ悪いと思う。しかし、「愛」は本作の分かりやすいテーマだ。

 また、聡実が幽霊部員として掛け持ち入部しているのが「映画を見る部」(こちらの部長は栗山−井澤徹)で、まず部名の「見る」が「観る」でないところに私は好感を持ったが、古い映画の断片が、いくつか挿入される(『白熱』『カサブランカ』『三十四丁目の奇蹟』『自転車泥棒』)。聡実が、栗山くんと一緒に『白熱』のキャグニーを見てヤクザを学ぶというのがいいし、『カサブランカ』で「愛は与えるものらしい」というフレーズが生まれ、すぐ次のシーンで、聡実のお母さん−坂井真紀が、お父さん−宮崎吐夢に焼き鮭の皮を与えるというのは可笑しかった。しかし、これが高速度撮影で、鮭の皮を映したカットが長い。この映画、こういうベタな見せ方がちょくちょくある。鶴の傘の真俯瞰とか。ヒコロヒー加藤雅也のシーンとか。

 そして、狂児−綾野剛の唄が、予想していたほど下手ではない、という点が、私には実に肩透かしだったが、それも良しとしたい。狂児の歌の上達よりも、私としては、聡実がソロで唄うのか、ということの方が関心事(映画を見ている際に、気になる事柄)となった。

 尚、狂児たちのシマは大阪南銀座と呼ばれる架空の街だが、石亭の看板が目立つ。屋上(風俗店の屋上か?)のシーンでは、スチワーデスという看板も見える(明らかにロケ地は大阪ではない)。カラオケ大会の会場は、スナック「カツ子」。クライマックスの「カツ子」の場面で、中盤までのシーンのフラッシュバックが連打されるのは、これもあまりにベタな趣向でゲンナリしかけたが、しかし、その各ショットは、先に見せられたものとは、ほゞ別テイク、しかもちょっとだけアングルを変えたショットばかり、というのは丁寧な仕事だと感じた。全編、ハンディカメラ撮影はワンカットも無しか。柳島克己の安定した撮影。移動、パン、切り返し、的確な照明も賞賛すべきだ。佳編と思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ひゅうちゃん[*] けにろん[*]

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