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[コメント] ゴールド・ボーイ(2023/日)

海。低い俯瞰の前進移動ショット。船上から(舳先から)撮ったショットかな、と思いながら見るが、それにしては浅瀬に見える。左から右へ波。透き通った水。
ゑぎ

 次に海中のショットと思っていたら、上昇移動し、あっという間に断崖上に。ドローン俯瞰に繋いだのだ。この冒頭アバンタイトルは、主人公の岡田将生と義父母−矢島健一中村久美との場面。

 時間が遡って、中学校の一学期の終業日。もう一人の主人公は中学2年生の羽村仁成−アサヒだ。というか、岡田以上に羽村の方が真の主人公と云うべきだろう。本作は、羽村と幼馴染(小学校のときの同級生)の前出燿志−ヒロシとその血の繋がっていない妹−星乃あんな−ナツキという中学2年生の3人が、岡田と関わっていく過程が描かれる映画であり、それは羽村のほゞ夏休みの期間に一致するので、夏休みの映画と云うことができる。また、全編、沖縄を舞台とする。

 そして、上記の4人(岡田、羽村、前出、星乃)はいずれも登場から既に殺人に関わっており(疑われている、疑わしい、ということを含めて)、これは、殺人者についての映画なのだ。彼らの謎の紐解きや、疑いに糊塗する顛末が描かれる中で、新たな殺人も計画される、という展開は一筋縄ではない、骨太い作劇だ。

 一方、こういう題材なので、少々説明的に過ぎる場面も出て来るが、それも作り手はワザと面白がっている感がある(テレビのサスペンスドラマの諷刺的な趣きというか)。なので、実は、冒頭時点で既に、岡田の臭い芝居をずっと見せられる映画かと思ってしまったが、しかし、大人役の演者たちの芝居は、ほとんど臭いのだ。岡田の妻の松井玲奈も、その従兄で刑事の江口洋介も、羽村の母親−黒木華まで。だからと云って、悪いかというとそんなことはない、ということだ(黒木が13歳の子供の母親役というのはちょっとショックだったが)。

 対して、子どもたち3人は大人たちに比べると幾分自然な演技がつけられていて、彼らの場面はとても瑞々しく、特に、羽村と星乃への演出が、本作の美点だと思う。前出は、ちょっと蚊帳の外になるシーンが多いし、キャラがブレている感じもあって可哀想だ(ルックスはマッチみたい)。羽村と星乃は、大袈裟に云えば、小さなボウイ&キーチ(ボニー&クライドでもいいが)のような切ない感覚が出て来るのだ。あるいは、例えば、終盤で3人が岡田の部屋へ向かう(建物前の路上の)シーンで、星乃だけを振り返えらせるショットを挿入するセンスなんかも唸ってしまった。

 カメラワークは、小さなドリー寄りとドリー後退の的確な使用、パンチのある仰角俯瞰の繰り出し等、柳島克己らしい極めて見応えのある画面造型だ。また、サスペンス・シーンの劇伴はテレビドラマっぽく感じられてイマイチだが、後半、羽村と星乃のデート場面から「マーラーの5番」が活用される。こゝは『ベニスに死す』で有名な「アダージェット」だが、第一楽章冒頭のファンファーレがクライマックスで鳴り響く、という演出は見事だ。さらにラストシーンまで、ファンファーレが鼻歌で唄われるといった使われ方。このエンディングの簡潔さも美点だろう。あと、墓地の場面における、岡田の吸血鬼みたいに見えるルックスも特筆しておきたい。カルト的な人気が出ても不思議でない面白い作品だと思う。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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