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[コメント] 遠い一本の道(1977/日)

これは一筋縄ではいかない図太い映画だ。私には、こういういびつな、畸形的な構造を持つ映画もとても魅力的に感じられる。
ゑぎ

かつての北海道追分機関区の保線作業員−井川比佐志とその妻−左幸子の人生の旅。そのたどり着いた場所が、長崎の軍艦島なのだ(この文、ちょっと比喩的表現です)。しかも、勤続30年間でもらった功績賞の扱いはどうだ!関川秀雄の『大いなる旅路』(本作と同じように功績賞の授賞式に夫婦で出席する映画)を想起せずにはいられないのだが、その差異の大きいこと!

 まずは、この映画、瀬川順一の撮影が大きなストロングポイントで、いろんなバリエーションで登場する蒸気機関車の走行カットが垂涎のカットばかりである、というだけにとどまらず、保線員の詰所や官舎内の屋内ドリー、といったドラマ部分も、ドラマの合い間に挿入される、ドキュメンタリー部分もいずれも良い出来なのだ。ちなみに、ドキュメンタリー部分の多くで、現場の国鉄職員へのインタビューの回答音声がモノローグで入るのもタイヘン興味深い。多くは制度批判、体制批判が語られる。あるいは、回想で左幸子の嫁入りの場面にさかのぼるシーケンス、温泉の中で泳ぐ彼女を映した鮮烈なシーンだとか、井川と左が、線路の上を二人で歩く陽炎ショットも見事なものだ。

 序盤から、手持ちカメラが活用され、ズームも要所で使われるが、それほど気にならない。ただ、軍艦島のシーンで、佇む長塚京三へ強烈なズームインがある。強烈な、というのは明らかにヒロイックなキャラ造型を狙った凄いスピード感のあるズームの使い方で、これはカッコいい表現だと思った。さらに井川へも、振り向く所作で、同じようなズームインがおこなわれる。あと、このエンディングで、かつての軍艦島の様子をフラッシュバックさせるようなオフの音声を活用したり、劇伴として邦楽を基本とした悲愴かつ荘厳な音楽が鳴り続けているのも、この映画に凄みを与えていると思う。

 調べると、1977年は、左幸子が羽仁進と離婚した年でもあり、心機一転、相当の気合いが入っていたのだろうと推測するのだが、いや、それでも初監督作として、よくこれだけの作品をまとめ上げたと感心する。この才能を伸ばす機会がその後無かったことが惜しいと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)jollyjoker

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