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[コメント] ターミナル(2004/米)

演出、撮影、音楽、俳優の演技など個々で見ると手堅く作られている。だがつまらない。(自分が観ているスピの他作品にもネタバレしない程度に言及してます)
JKF

モデルになった人物が居るとはいえ非現実的な話だし、しかもトム・ハンクスと来れば従来のスピルバーグらしさ溢れるファンタジックで心暖まる作品に仕上がっていることを期待せずにはいられなかった。ところが観てみれば何一つ心に響かない。作品世界に全く入り込めず、数々のドラマを虚構と割り切って見下してしまうほどてかったるい。ヌルいお湯に浸かりきったようなファンタジーで、大雪の日に映画館に足を運んだあっさりと俺は湯冷めしてしまった。

まずこの映画、冒険も挑戦も、観客を楽しませる努力さえもしていない。スピルバーグは意欲を持ってこの作品に臨んだのだろうか?映画として観たときに、演出、音楽、脚本、撮影、俳優の演技など個々のクオリティは高い。だがもっと粗削りでも自分が描きたいこと、伝えたいことをしっかりと持ち、そしてそれを観客の心深くに刻みつけるための挑戦や冒険があり、観客を楽しませる努力をしている映画じゃなければ面白いなんて思えないんだ。

この2004年、韓流とかいう世俗的なものとは関係なく、多くの映画ファンから高い評価を得た何本かの韓国映画がある。『シルミド』『殺人の追憶』『ブラザーフッド』『オールドボーイ』などなど。どの作品も少々粗削りで力で押し切った部分が垣間見られた。しかしエンターティメントとしての水準を保つための努力をしていたし、何より「自国の忘れられようとしている出来事」や映画として「タブー」とされるものを敢えてストーリーの軸に置きながら、それを妥協せずに伝えるようとする製作の向上心をしっかりと感じられた。

スピルバーグもかつては多少の粗があったりしながらも、様々なジャンルに挑戦し、観客を擬似冒険させるために様々な冒険をしながら映画製作をしていたと思う。作品の好き嫌い、成功失敗はともかくとして『未知との遭遇』では宇宙人との初の交信にあんな方法を用いるという冒険をした。『インディアナ・ジョーンズ』シリーズではハリソン・フォードの代表となるキャラクター像を構築し、観客を楽しませるためにトロッコやら巨大石球やら様々な工夫を凝らしていた。『ジュラシック・パーク』では失われし恐竜を現代に蘇らすため、当時の技術の限界まで挑戦した。そしてそれを生かすべく演出をしっかり行っていた。続編『ロストワールド』のクライマックスでは明らかにゴジラ越えをはかるべく挑戦もしていた。『プライベートライアン』は冒頭30分で戦争を忠実に再現するために腐心したことがひしひしと伝わってきた。個人的にはスピルバーグのベストシーンである。『A.I.』は失敗はしたけれどキューブリックの遺志を汲みながらも映画を作ろうとする意欲は感じられた。

そういう観点から捉えると、これは話がそこそこ面白い題材を大した工夫もこらさず、トム・ハンクス×スピルバーグというネームバリューを利用して、小金を稼ぐために適当な具合にサササっと作ってみました、という印象しか受けない。もしも監督が全力で映画を作ったならば、観客も全力でそれを受け止めようという気になる。俺はこれでは全然そういう気にはなれなかった。

クライマックスは多少見せてくれたので★2になったが、トム・ハンクスと管理責任部長みたいなハゲオヤジとのやりとりや、トム・ハンクスが間に立った恋愛のエピソードが心に響かなかったため、中盤はものすごく退屈だった。

宇宙戦争』はもうちょい本気で頼みますよ。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)おーい粗茶[*]

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