[コメント] 必死剣 鳥刺し(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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物語はほぼ原作に忠実に沿っているのだが、原作では、側室の口出しを放置し抑えきれない事態を招いた藩の重役たちの不甲斐なさを匂わせる記述もある。映画ではそれをはぶいて、側室を稀代の悪女としてより強調したつくりになっている。
原作の中ではわずか数行で記されていることをことさら映像で強調しているようにも感じられ、原作と比べると、なんだか善悪の区別がくっきりし過ぎているような気がしないでもない。
そのために、欺かれたことを知った豊川悦司の無残さが今一つ弱いし、最後に中老の岸部一徳を一瞬で仕留めた爽快感や、残された姪との秘め事の切なさがやや弱くなったように思えた。
しかしそういう点以外では、例えば冒頭は、本格的な能や、側室を刺殺する豊川悦司の鮮やかな手並みと刺した後の所作の見事さで、一流の時代劇としての期待を膨らませる導入部になっており、そしてほぼ全編にわたってその期待は裏切られることがなかった。
豊川悦司も無用な台詞をはぶき動きで芝居をしたのは良かったし、吉川晃司の凄みも良かった。それに比べると、関めぐみ以外の女優たちにはちょっと華が不足していた。それにいささか流れ出る血の量が多すぎるような気もするが、かなり完成度の高い時代劇に仕上がっている。
また豊川悦司が少年たちの前で「鳥刺し」をしてみせるシーンは、原作にはないシーンなだけに、制作陣の意気込みと工夫が感じられる良くできたシーンであった。
「海坂藩」のモデルである庄内藩では、野山を歩くことは鍛錬になると家中の武士に「鳥刺し」と「川釣り」を奨励していたそうで、藤沢周平の時代劇小説にはこの二つはよく登場する。
「川釣り」はともかく「鳥刺し」とはどのようなものか、イメージしずらかったが、本作では「なるほど」と思わせるものがあった。
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