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[コメント] サマータイムマシンブルース(2005/日)

これは、辻褄を合わせる為の編集作業に奮闘する、‘映画部’の活動記録である――なんて考えれば、成る程、舞台作品から映画化した意味はあった。上野樹里の、夏みかんのような存在感。テキトーな感じのするタイトルも、実はイイ味を醸してくれる。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭からしばらく続く、まったりダラダラな学生生活が、彼らの日常がどんなものなのか感じさせてくれる。加えて、それらの場面の合間に、画面が暗転してテープを巻き戻す音が聞こえる、という演出が挿み込まれている事で、これから何かが起こるらしい、という事を予感させ、観客に、一見くだらない日常が続く展開に対しての、それなりの集中力を求めていたように感じた。実際、後から登場人物たちは、あの他愛もない日常を壊さない為に、奮闘する事になるのだ。

こうした淡々とした冒頭部は、さすがにテレビドラマでは無理だろうな。平均的な視聴者には、チャンネル変えられてしまいそう。そうした意味では、本広さんは珍しく(?)「映画」してる印象。

辻褄を合わせ、決められた枠に滑り込む。物理的・ミクロ的に考えれば、過去に戻れば僅かながらにでも変化は生じてしまうのだけど、人がそれとして知覚出来ないレベルなら大丈夫(らしい)。劇中では相対性理論として語られていたが、これは映画の編集論としても頭に入れておきたい理屈。SF研究会は、女子二人の写真部を内に抱え、そこにカメラがあり、近くには映画館がある、という形で、曖昧に映画部的空気を漂わせる。

冒頭のスタッフ・キャスト名が、ラベルライターでテープに打たれた形で出てくるのがミソ。映画の最後に、夏のひと時を収めた写真が無造作に散らばる様が映され、写真部の女子二人が「どうしよう?」と頭を悩ませていたタイトルが、テープに打たれて貼られている。「SUMMER TIMEMACHINE BLUES」。明らかに渡部美里の「サマータイム ブルース」からパクった、タイムマシンに因んだダジャレのようなこのタイトルが、却って、いかにも学生が自主映画にでも付けそうなタイトルに思えて、甘酸っぱい青春の味わいがしてくる。それは上野樹里の、「普通の女の子」の範囲内で最大限にかわいいキャラ、という存在感があってこそ、でもある。大人のお姉さん風の真木よう子ではそうはいかないし、他の男どもでは暑苦しすぎる。

この映画は、プロットの巧さもあるが、やはり、あの幼稚な野郎たちと、それをクールに見守る、というか仕方なく傍観する女子二人の醸す空気を好きだと感じるかどうか、の映画。オモチャ箱の中のような部室のカラフルさや、河童様の伝説を語るおじさんの、飄々としつつも妙に濃厚なキャラ、寂びれ気味なのがなぜかホッとさせてくれる商店街、等々、主要メンバーを包み込む舞台そのものにも顔がある。そして、30年後の部員や、99年前の、「河童」を目撃した村人との接触が、狭い世界を時間軸に沿って縦に伸ばしたような世界観の広がりを見せ、場所や人とのつながりを浮き上がらせる。内輪で盛り上がっているだけに見えてその実、彼らの手の届く範囲での世界観の広がりをちゃんと描いているのが好印象。

扇風機のプロペラに襲われる場面や、「ヴィダルサスーン」事件、等々の小ネタが面白いのは、ネタそのものよりも、それらに対する登場人物たちのリアクションが、誇張されたリアルさを感じさせるからだ。笑いやサスペンスが何か一つ放たれると、それと一緒に、モラトリアムな空気もポワンと発散される。テンポが良いのにヌルく、頭を使わされると同時に、アホらしさも花開く。この妙なバランス感覚。

それにしても、あの河童になった男は、どういう経緯で99年前に送られたのか、その辺が何だか適当に誤魔化されてしまったような気がして、やや不満。ただ、100年前ではなく99年前という、ギリギリ二桁に収めて、「遠い過去」すぎないように配慮している所(一回のタイムトラベルには限界があるという設定)は、芸が細かいというか。

ただ一つ不満があるとすればこの映画、脚本の頭の良さと、登場人物のバカっぷりとのギャップがミスマッチの妙で面白いのだけど、その論理性にせよ、おバカにせよ、裏も影も感じさせない単純性が貫かれており、観やすい反面、何か物足りない気がしてしまうんだな…。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)YO--CHAN[*] Myurakz[*]

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