コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] サマーウォーズ(2009/日)

都市が、町が機能停止状態となり混迷を深めるカタストロフと奇妙に同居する、それまでの日常と地続きの平穏さ。この描写は『機動警察パトレイバー2』に次ぐインパクト。村上隆のアート作品のようなサイバーワールドでの物量で押すスペクタクルも快感。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「旧家出身、東大出、アメリカ帰り」という侘助のプロフィールをそのままパクった、健二の「ニセ婿どの」設定。言わばこれはリアルワールドでの「アカウント奪取」?この侘助が、勝手に山を売ってしまったことや、その金を元手にラブマシーンの完成にまで至ったこと、殆ど勘当状態であるらしいこと、隠し子という劣等感がラブマシーン開発の強い動機であったことなど、リアルワールド=陣内家(少なくとも劇中ではそうした位置付けだろう)に対して身内と余所者の中間のような微妙な立場であることが、物語を駆動させる一つの重要な要素となっている。つまり、リアルワールドとサイバーワールドが互いを批評し合う関係性。それが、この二つのワールドが互いを補い合うようになるまでの過程が、取り敢えずは本作が描いていたものだと言える。

「陣内」という姓の通りの、日本国家そのものが自らの陣内であるという状況から闘いが始まったリアルワールドが、全くの余所者である主人公・健二と彼を陣内家に招き入れた夏希らによる、サイバーワールド内の奮闘に引き寄せられる形で、世界中が「一つ屋根の下」状態へと拡大していく終盤の花札勝負。

ラブマシーンを捕獲するための作戦が遂行されるシーンでは、陣内家の屋敷内にスーパーコンピューターや漁船を持ち込むために屋敷の縁側が衝撃を受けて屋敷が振動し、栄の枕元に置かれた一膳飯が落っこちたり、門が破壊されたりと、リアルワールドに於けるネットワークのコアたる旧家が揺れ動く。親戚一同の大半はサイバーワールドになど眼もくれずに栄の葬儀の準備に追われているようだが、ここで物理的に強引に、その旧家が動揺させられるのだ。

巨大コンピューターを冷やしていた氷柱が、栄の遺体の防腐のために枕元に置かれるシーンは、結果的にコンピューターの熱暴走を引き起こした無知で無神経な「翔太にぃ」をブン殴りたくなるのだが、ちゃんと佳主馬が殴ってくれるところがこの映画の気持ちいいところ。つまり、昔ながらの親戚付き合いの鬱陶しさを描きながらも、まさにその親戚付き合いの中で、そのストレスが解消されるようにもなっている。それに加えてこのシーン、サイバーワールドでの闘いの後ろ盾であるコンピューターが、氷柱の必要という形で栄、つまりリアルワールドでの後ろ盾と重ねられているのが面白い。

また、終盤の世界崩壊へのカウントに於けるデジタル時計に先立って、OZ内でデジタル時計の推移と共に時報が鳴るシーンが何度かあるが、あの証券取引所の電光掲示板のような円形の帯や「野球」という共通項と併せて『時をかける少女』つながりだ、というのみならず、リアルワールドで腕時計で時間を確認するシーンがあったこととのリンクが感じとれる。つまり、健二が一連の騒動の犯人と見做されて、警察官である翔太に逮捕されるシーン。それと、栄が亡くなるシーンでは、医師である万作が死亡時間を確認している。(そういえば、庵野秀明もカウントをよく使っている印象がある)

ラブマシーンは、開発者である侘助によれば「知識欲」を与えただけであって、ああしろこうしろとは何も命じていないという。登録されたアカウントを奪っていくのも、様々な権限を手にすることで様々な情報にアクセスしたいという欲求の追求ということで取り敢えずは了解。では愉快犯的に混沌をもたらすのはなぜか。ラブマシーンにとっては一種の実験としてそれを行なっているのだということで一応了解。「ゲーム好き」という設定も、人間の行動への知識欲として了解。では衛星を落下させる(「コロニー落とし」かよ)ことで原発を破壊しようとするのは?ラブマシーンの作動はそもそもは米軍が行なった実験ということなので、その「知識欲」は軍事的な実験精神ということに特化した面があるということなのか。最後の最後には陣内邸に衛星落としを試みるのも、報復攻撃という軍事的な目的が幾らか与えられていたのかも、ということで一応了解してあげよう。

ただ、こうした、擬似的にせよ「悪意」や「生存本能」のようなものを与えないと「敵」として造形し難いのだろうな、という一抹の苦しさは感じる。この種のご都合主義的な面が多々散見される作品ではある。「知識欲」は既存のデータなりシステムなりの奪取に限定され、例えばオズ内のゲームのルールを自分に都合よく改変したりはしない。だが、OZのコアセンターらしき建造物(?)にラクガキがしてある辺りには、「混乱」「ハッキング」を表わすアニメ的な表現の記号性が、如何ともし難く滲み出している。必ずしも厳格に、また否定的に見るつもりもないのだが、全く気にしないわけにもいかない。

吸収したアバターの黒々とした集合体と化したラブマシーンの造形は、『もののけ姫』のデイダラボッチと『千と千尋の神隠し』のカオナシを足して二で割ったような印象。このラブマシーンのみならず、OZ内での膨大な物量による表現は『マトリックス・レボリューションズ』の影響が覗えるが。

最後に言えば、本作に「萌えキャラ」がいたとすれば、ツンデレ風な夏希というより、格闘少年・佳主馬だろう。エンドロールを見るまで谷村美月とは気づかなかったけど。あと、どうせなら、それと一目で分かる、OZ安二郎なシーンが欲しかった。それと、やはり陣内家が完璧に体制側というのがどうも……。事態を改善しようとあちこちに電話をかけまくる婆ちゃんを見ていると、その懸命な努力に感動する一方で、様々な機関に働きかけることができるという意味では、リアルワールドのラブマシーンとも言えるこの婆ちゃんが悪意を抱いたとしたら、それはそれでまたサイバーハッキングとは違った形で災厄をもたらすのではないかとも思えてくる。そうしたシステムへの批評性がまだまだ弱すぎる。これがこの作品の、感動させられながらもどこか気味の悪さが残ってしまう最大の原因だろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)3819695[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。